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上々堂(shanshando)三鷹

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2009年 06月 05日

佇む

西荻窪駅の北口の真向かいにある飲み屋街の細道を入って
3分ぐらい歩くと右手に黄色の地に黒く古書の文字が見える。
これがわが興居島屋の看板。
店の正面に立つとその看板の裏側が見え、こちらはこの14年
知っている人にはケッコー知られた「アラカンの鞍馬天狗」。
相棒のスミコさんの作品である。

この場所で商売を始めた理由はまぁほぼ成り行きというか、
当時の私の懐具合と自信に見合う価格の家賃がもっとも大きな
理由で、当時は今みたいにお洒落な店は周辺になかったけれど、
いかにも当時のニシオギらしいおっさん好みの居酒屋は多かっ
たし、なによりもうちょっと先に行くと、銭湯好きには堪らないほど
のゆかしい造りの玉の湯があり、戻るとジャズ専門のライブハウス
アケタの店があり、すこしはなれた善福寺川沿いの小高い処には
ケヤキの巨木があり、なんだかすべてがいい感じだったのだ。

ケヤキの巨木は多くの人の声に守られ先年伐採の危機を乗り越え、
今も変わらず街を見下ろしているし、オッサン好みの居酒屋は時流
に乗って若干お洒落に生まれ変わったし、アケタの店は聞けば相当
なオーナーの意地によって支えられ、今もジャズ一本のライブを
行っているけれど、この度とうとう玉の湯が廃業することになった。

興居島屋にとってはケヤキがお父さんで玉の湯がお母さんみたいな
存在だっただけに残念でならない。
この14年の間に私が認識しているだけでも、3軒の銭湯が姿を消した
が、みんなに人気の玉の湯だけはいつまでも大丈夫と思ってきたが、
やはり時流には適わなかったということか。

毎日何人もの人々が「廃業のお知らせ」の前で佇んでいる姿を見かける。
多くはお風呂セットを小脇に抱えたお年寄りで、「お知らせ」が張り出され
てもう大分なる今日あたりに佇んでいたのは、おそらく家にお風呂がある
けれど、やっぱり銭湯が好きで月に何度か来ていた人だろうけれど、
利用者の多くは未だ周辺に残る風呂なしアパートの住民で、お風呂屋の
廃業はそれらアパートの大家に建て替え、売却を考えさせずにはいない
から、廃業の決断の裏に地元の顔役的不動産屋の介在が容易に想像で
きる。
多分Wあたりが咬んでいるのだろう。
街から良い建物が無くなるとかならずWの看板が立つ。

街は時代に合わせて生まれ変わるのが当たり前で、だから益も無い
感傷に浸っているわけにもいかないが、玉の湯の廃業にがっかりしている
人が多いのは事実で、そういう人たちにはやっぱりWは愛されない。
愛されなくたって金と物件を握っている不動産屋は誰からも排斥されずに
街で大きな顔をしつづける。
不景気とはいっても逞しい不動産屋はあの手この手で稼ぎ、ささやかな
愉しみを失ったお年寄りや、風呂なしアパートの住民は雨の中で佇んでいる
よりほかにしようもない。

やな世の中だ。

by shanshando | 2009-06-05 19:08 | ■原チャリ仕入れ旅■


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