上々堂(shanshando)三鷹

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2005年 08月 20日

古本屋の掃苔帖 第三十四回 甘粕正彦

「私は軍人の出ですから、武士らしく日本刀で切腹すべきですが、
不忠不尽のものですから、そういう死に方に値しないのです。
他の方法で死にます。人間は弱いものですから、あるいは死の
決意がにぶるかもしれません。しかし私はこうして皆さんに話した
からは、必ず死にます。」
昭和20年8月16日満映の日本人職員、家族を前にして甘粕がした
わかれの挨拶である。

「ラストエンペラー」で坂本龍一が演じたせいか、荒俣宏の小説の
影響かは知らないが、最近甘粕が若い人の読む劇画や小説によく
登場するらしい。

甘粕正彦、満州の影の権力者として君臨した魔王のような元憲兵
大尉。というわけである。
実際、甘粕正彦ほど歴史のいたずらで虚像を膨らませた男は少ない
思う。
実像はどう考えても生真面目で律儀で多少頭がきれる小官吏、
時代が違ったら文学青年にでもなってたほうが似合ってたたんじゃな
いかと思うほど多感で純真な部分もある…という感じだ。
32歳の時、関東大震災のどさくさにまぎれて大杉栄と伊藤野枝を殺した
とされるが、事実は軍隊の上層部がきめて謀殺した責任を憲兵大尉だっ
た甘粕一人に押し付けたのだろう。
高島米峰によれば、殺された大杉は「実行力を有しない単なる無政府
主義者」にすぎなかったのに、甘粕に殺される事によってかえって「エライ者」
にされちゃったという事だが、甘粕のほうだってたまたまこの役を押し付
けられなかったら、ただの律儀な憲兵士官で終わっていただろう。
とても、満州の影の魔王になれるような器じゃなかったはずだ。
いっそ、ドラマをオカルトじたてに考えてみて、凡庸な山師に過ぎなかった
大杉の巻き添えで殺された魔性の女伊藤野枝が腹立ちまぎれに、甘粕に
とり憑いて魔王にしっちゃったというのはどうだろう?
ちょっと、小説のネタになりそうではないか?

冒頭の挨拶をした四日後の20日の朝、新京の満映理事長室で服毒、
たまたま、そばに居た内田吐夢が吐かせようとしたが間に合わず死亡。
享年54歳。
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by shanshando | 2005-08-20 00:04 | ■古本屋の掃苔帖


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