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上々堂(shanshando)三鷹

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2005年 09月 28日

古本屋の掃苔帖 第六十六回 遠藤周作

遠藤周作の「海と毒薬」という小説のうまさは、冒頭から
読者の「衛生」に対する意識をさりげなく喚起させるところ
から始まっているところにあると思う。

猛暑、風呂のない住宅、妊娠している妻、砂埃の街、不衛生な
銭湯、気胸、爪に垢のたまった芋虫のような指をした医者。
それらから語ることで、これから語られる物語を読者が自分の身
体で感じざるを得ないようにしている。
不気味だ。

遠藤周作の人生はさまざまな病気とのつきあいの連続であった。
結核・肝臓・糖尿そして最後は腎臓治療のための入院中肺炎による
呼吸不全のため亡くなっている。

一般に闘病生活というのは、人間を客観的にするようだが、誰もが
その体験を小説にできるわけではない。
「客観」ってなんだという問題は邪魔くさいので置いといて、とにかく
物語を創造する人間の客観性は普通の人間の客観をさらに突き放
して、反転するようなところがないと駄目なようだ。
遠藤周作にとってそうした客観性を得るための「鏡」として「信仰」が
あったのではないかと思った。

真摯に人間を見つめる彼と、その自分自身を韜晦するかのように「ぐ
うたらシリーズ」を書いた彼、狐狸庵先生遠藤周作は1996年9月29
日亡くなっている。享年73歳。

by shanshando | 2005-09-28 22:30 | ■古本屋の掃苔帖


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