2005年 09月 28日
遠藤周作の「海と毒薬」という小説のうまさは、冒頭から 読者の「衛生」に対する意識をさりげなく喚起させるところ から始まっているところにあると思う。 猛暑、風呂のない住宅、妊娠している妻、砂埃の街、不衛生な 銭湯、気胸、爪に垢のたまった芋虫のような指をした医者。 それらから語ることで、これから語られる物語を読者が自分の身 体で感じざるを得ないようにしている。 不気味だ。 遠藤周作の人生はさまざまな病気とのつきあいの連続であった。 結核・肝臓・糖尿そして最後は腎臓治療のための入院中肺炎による 呼吸不全のため亡くなっている。 一般に闘病生活というのは、人間を客観的にするようだが、誰もが その体験を小説にできるわけではない。 「客観」ってなんだという問題は邪魔くさいので置いといて、とにかく 物語を創造する人間の客観性は普通の人間の客観をさらに突き放 して、反転するようなところがないと駄目なようだ。 遠藤周作にとってそうした客観性を得るための「鏡」として「信仰」が あったのではないかと思った。 真摯に人間を見つめる彼と、その自分自身を韜晦するかのように「ぐ うたらシリーズ」を書いた彼、狐狸庵先生遠藤周作は1996年9月29 日亡くなっている。享年73歳。
by shanshando
| 2005-09-28 22:30
| ■古本屋の掃苔帖
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