2005年 09月 29日
この小さんは、この間死んだ五代目小さんの師匠で、 漱石が「同じ時代に生まれ合わせた」事を幸せに思っていた 三代目小さんの弟子にあたる。 明治21年の生まれだから、志ん生の二つ年上になる。 平素無口で芸質は地味で「曲がりたる心ある者は落語を止め べし」なんて言っちゃう謹厳居士で、志ん生とはまったくの逆対 象。写真の顔も芸人というよりなんだか禅僧みたいだ。 五代目小さんは若い頃から非常にこの人に似ていたらしい。 無口で無愛想者の似た者師弟が、縁側でひがな一日お互い なんにも言わずに過ごしていたという情景を五代目がいろんな ところで話していて、おしゃべりの私などとても真似できない だろうが、ちと羨ましい気がするのだ。 師弟という人間関係は現代の日本では成立しにくくなった。 やっぱり日教組のせいかしら? 落語家の師匠は普通まったくの無償で弟子に芸を教え、場合に よっては飯を食わせ、小遣いまでくれたりするらしい。 勿論弟子のほうだって無償で、師匠の家の掃除や子守をする らしいが。 こんな前近代的な人間関係が息づいているのは、伝統芸能でも 落語と歌舞伎ぐらいだろう。 歌舞伎は師匠が奉仕をもとめる事ばかりで、弟子は尽くすだけで 大方は一生終えてしまう。その点落語は圧倒的に師匠が弟子に 与えるものが大きいようだ。 いや、こういうギブ アンド テイク的な発想をしてしまう事が私自身 悪しき戦後民主主義の申し子である所以なのだろうか。 要するに恋愛と同質の不条理な人間関係が立川談志のいう「イリュ ージョン」の成立の為には必要と言う事だろう。 昭和初期の牛込若宮町、昼下がりの民家の庭で黙って新聞を読ん でいる中年男とその傍らでやはり黙ったままボンヤリしている丸顔の 青年、二人の間には不条理な愛が……と書くと気持ち悪いが。そんな 伸びやかな時間の中で培われたものが、あの五代目小さんの独特の 味になっていたかと思うと、あの気を衒う事を嫌う大きな芸に生きていた のかと思うと、なんだかゆかしく思えてくる。 昭和22年9月30日上野鈴本の「余一会」(本来月の31日に行われる 特別プログラムのはずが30日に行われたのは何故か)の高座を終え た直後四代目柳家小さんが60歳で急死し、その三年後五代目が襲名 をした。 これを書くに当たって、五代目柳家小さん「芸談・食談・粋談」を読んだ。 中に合羽橋の飯田屋という泥鰌屋の話があり、大変うまそう。次の休み に行ってみるか。 ちなみに「芸談・食談・粋談」は編者の興津要のサインつきで興居島屋の 棚にある。 1,200円です。
by shanshando
| 2005-09-29 23:44
| ■古本屋の掃苔帖
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