上々堂(shanshando)三鷹

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2005年 11月 06日

古本屋の掃苔帖 第九十七回 越路吹雪

昭和の歌謡史で実力人気ともに、美空ひばりと肩を
並べ得る歌手といえばやはり、この人しかいないだろう
と思うが、今だに追悼番組が折々に放送される美空に対
して、越路吹雪の追悼番組がほとんどないのは、やはり
この人の仕事が舞台中心だったせいだろう。

宝塚出身のせいもあって、女性ファンが多かったようだが
同時に多くの文人に愛された人でもある。
始めてパリを訪れた時には、ちょうど渡仏中だった小林
秀雄と今日出海が空港まで迎えに出ているし、三島由紀夫
は彼女のために「女は占領されない」という戯曲を書いて
いて、一時相当親密な交際をしていたといわれる。
熱海にある「ボンネット」という日本で最初にオープンした
ハンバーガーショップをふたりとも贔屓にしていたらしい
から、今なら芸能人がハワイでデートするように、当時は
熱海でデートしたのかもしれない。

ハンバーガーショップといえば肉が好きだったようで、舞台
の時はかならず決まった時間にステーキを食べたという。
親族が多く癌で亡くなっているため、身体には細心の注意を
していたというが、舞台のためとは言え、毎日ステーキを食
べるというのは明らかに自殺行為である。
それほどに当時の日本人の牛肉信仰は篤く、あきらかに占領国
アメリカに対するコンプレックスと妄信のせいであろう。
女は占領されなかったけど、食生活は占領されていたわけである。
今も。

「私はたくさん恋をしたし、外国にも行きたいだけ行ったし、歌
いたい歌もたくさん歌えて、もうこれでいいよ……でも死ぬのって
怖いね」と盟友岩谷時子に云って、越路吹雪ことコーちゃんは1980
年11月7日56歳で他界した。死因は案の定というべきか胃癌であった。
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by shanshando | 2005-11-06 14:07 | ■古本屋の掃苔帖


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