上々堂(shanshando)三鷹

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2005年 11月 19日

古本屋の掃苔帖 第百八回 レフ・トルストイ

ジェイ・パリーニの「終着駅、トルストイの死の謎」(晶文社)
は、著者自身のあとがきによると、彼自身がナポリの古書店で
トルストイの秘書ワイレンチン・ブルガーコフの日記を掘り出
したのを契機にトルストイの親族、関係者の残した日記や手記を
あつめて描かれた小説で、あくまでフィクションであるとされて
いるが、何故82歳の世界的文豪が、余命が幾ばくもないと知りつ
つ住み慣れた家を夜逃げ同然に出て、ついには寒村の駅長官舎で
死ななければならなかったかを、如実に浮き彫りにしている。
詳細は本で読んでいただきたいが、簡単に言ってしまえば細君の
ヒステリーが原因なのである。
訳者のあとがきで篠田綾子さんは「古今三悪妻」にソクラテスや
モーツァルトの妻とならんでこのトルストイの妻ソフィア・アン
ドレーエヴナがならび称せられると紹介されているが、私はこの
本の中に出てくる人物の中で一番共感できたのがソフィア・アン
ドレーエヴナであった。トルストイ自身もまわりの人間も彼をキ
リストだと思っているという、彼女の指摘はまさに当を得ている
と思う。
一体悪妻などといういい方は、それ自体男の都合ばかりをたてよ
うとする偏頗な言い方で、トルストイと妻の確執も見方をかえれば
世間でよくみる夫婦げんかと変わるところはないのだが、それに
悲劇性を与えたのは当時ヨーロッパのみならず世界中にいたトル
ストイ教の理想家たちの妄信による熱い視線だったのではあるま
いか。
それがなければ、トルストイ自身も「まぁ理想は別なんだけど、
ウチのカアちゃんが煩いもんで」とかなんとか言ってお茶を濁せ
たのではあるまいか?

とにかく、ガンジーに非暴力主義を示唆し、武者小路実篤に「新
しき村」を作らしめた理想主義的無政府主義者レフ・トルストイ
は天敵である女房に圧勝するためだけに望んで悲劇的な最後をと
げた。1910年の明日11月20日のことである。
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by shanshando | 2005-11-19 22:08 | ■古本屋の掃苔帖


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