上々堂(shanshando)三鷹

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2005年 12月 24日

古本屋の掃苔帖 第百三十八回 ニコラス・ダース

ニコラス・ダースって誰?
わかりませんよね普通。
時はそう、仮に1872年としてもいいでしょう。時計が0時
を回り、その年のクリスマスがやってきたばかりの深夜、処は
ベルギー アントワープの旧教寺院の石造りの聖堂、この町が
生んだ偉大な画家ルーベンスの描いた大きな二枚のキリストの
絵を前に、一匹の老犬とともに抱き合うようにして死んだあの
少年、そう「フランダースの犬」の主人公ネロ・ダースの事です。
ネロ、あるいはネルロというのは愛称で正式にはニコラスなのだ
そうです。
いや、菊池寛訳の「フランダースの犬」を読み返してみましたが、
私どーも、実は涙腺の弱い方でして、思わずぐっときちゃいました。
実にどうも救いのない話ですねー。

「フランダースの犬」はド・ラ・ラメーマリー・ルィーズという
イギリスの女性が1872年に書いたもので、「時を仮に…」と書い
たのはその為です。
物語の最後、主要な悪役である轢き粉屋の主人は改心して、ちょっと
いいもんになりますし、物語の初めの方ではパトラッシュを虐待し
ていた元の飼い主の金物屋も罰があたって死んでしまいますが、よ
く読むと最後まで罰されないままの悪人がいますね。そう旧教寺院
の坊主たちです。菊地訳ではネロが、貧乏人には絵が観られないよう
に高い拝観料を取るなんて間違っていると批判しますし、最後の瞬間
に月光で照らされて絵が見えるのも、そのまえにネロが覆ってある布
を引き裂くからです。なにも引き裂かなくても、と思いませんか?
ここまで、旧教を敵役にするのは作者はプロテスタントなんでしょうか?

とにかく、この物語はベルギーでは元々ほとんど知られていませんでした
し、知っている人もほとんどが否定的でした。ベルギー人は可愛そうな
孤児や老犬にそんな酷い事をしたりしないというのです。いやそれは本当
で根性の悪いフランス人と違って、ベルギー人は本当に親切なんですけど。

アントワープに今はパトラッシュの像がありますが、これは実は日本人
観光客用なのです。ただ、アニメで観たセントバーナードのような大型犬
を期待しているとあてがはずれます。あれは菊地訳に「フランダースの犬
は一体に頭も四本の脚も大きい」とあるせいでしょうけれど。本当のフラ
ンダースあたりの犬は柴犬のような形の中型犬のようで。像になったパト
ラッシュもそうです。
ちなみにアメリカで翻訳された版では、ネロの行方不明だった父親が現れ
てハッピーエンドだそうです。フンッつまんねーの。

さて、あと二時間ばかりでクリスマスです。宗教的にとくにこだわりを
持たない人も年に一度敬虔な気持ちになってみてはいかがでしょうか。

ちなみにネロ少年の享年は、原作では推定15、6歳。それではちょっと
とうがたちすぎていると判断したためかアニメ版では10歳ということ
になっています。
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by shanshando | 2005-12-24 22:09 | ■古本屋の掃苔帖


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