上々堂(shanshando)三鷹

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2005年 12月 27日

古本屋の掃苔帖 第百四十回 横溝正史

日本推理小説の祖は、江戸川乱歩か黒岩涙香か?
黒岩は翻訳翻案だから、やはり乱歩とすべきだろう。
しかし、これを本格ミステリーと更に分野を限ると、
その鼻祖は満場一致で横溝正史になる。
本格ミステリーの概念とは?
「幻想的で、魅力ある謎を冒頭付近に有し、さらにこれ
の解明のための、高度な論理性を有す(形式の)小説」
ということである。
乱歩は確かに高度な論理性には欠けるかもしれない。
別冊「幻影城」創刊号の作品目録によれば、横溝正史
の処女作は、大正10年に「新青年」に発表した「恐ろし
き四月馬鹿」とされているが、この作品から、敗戦までの
作品は、論理性にかけ、本格とは呼びがたい。
彼自身のそして日本初の本格ミステリーは、昭和21年
に発表されたお馴染み金田一耕介が登場する「本陣殺
人事件」である。
この作品に対する評として、乱歩は、トリックが機械的で
ありすぎ、本格物として一流とは言いかねるという評を述
べつつも、これがはじめて欧米の作品に肩を並べえる論理
性をもつ作品であると、認めている。

探偵物の推理小説の宿命として、良い作品ほど主人公で
ある探偵が作者より知名度を得るという傾向があり、為に
例えばコナン・ドイルのように作者が探偵に嫉妬して、作品
のなかで探偵を抹殺しようとして、世間の不興をかうなどと
いう珍妙な事態がおこったりするわけであるが、横溝の場合
も完全に知名度の上では金田一に負けているといってよいだ
ろう。
「中肉中背…というよりはいくらか小柄な……おそろしく風采
を構わぬ人物…色は白いほうだが、容貌はとりたてていうほ
どの事はない。」これが、作者が金田一に与えた容貌人相な
わけだが、映画やドラマ芝居になるとどうしても男前がこれを
やることになる。
現在までに、およそ20人の金田一役者が出ているといわれる
が、渥美清や片岡鶴太郎を例外として、ほとんど二枚目が演
じている。
原作のヒットした要因のひとつに、風采のあがらぬ貧相な男が
実はすべてを見抜く知力の持ち主であるという、痛快さがある
のだから、製作者はそこを考えて配役してもらいたいものだ。
二枚目じゃなくても。渥美清や鶴太郎は貧相さという点において
不十分だ。秘められた知性も感じない。
歴代金田一のなかでは、私はやはり古谷一行がまだ一番あっ
ていたように思う。上川は飄逸さに欠け、稲垣は気も頭も弱そ
うだ。
映画を作ると文庫が売れて、角川は儲かる。安易に他ですで
に評価の定まった金田一役者で作ろうとせず、アングラ劇団
あたりから拾い上げてきて、これぞ金田一耕介という役者で
シリーズを全て作り直す気概でやったら、きっとまた大流行
すると思うのだが。

ところで、金田一耕介はじゃなかった、横溝正史は1981年
の明日結腸癌で亡くなっている。享年79歳。
亡くなって四半世紀になるわけだが、ネット上でも金田一や
横溝の話題を扱ったサイトは多いようだ。
その気になって作ったら儲かりまっせ角川はん。
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by shanshando | 2005-12-27 17:24 | ■古本屋の掃苔帖


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