上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 01月 22日

古本屋の掃苔帖 第百六十一回 谷内六郎

朝の光が雨戸のふし穴を通して外の景色をさかさに
うつしております、幻燈のようです。
天井の板の木目が寝ながら見ると色々に変化します、
鬼になったり旅のお爺さんになったり天女に見えたり
します。
眼をジーッととじると鉄道地図の線みたいなのが透明
に行ったり来たり、きつく眼をとじると黄や緑や青の
美しい花のような輪が見えます。
だいたいそんな病気で寝ている時の感覚が強い絵の味
の素になっているようです。
 (谷内六郎、「遠い日の絵本」あとがきより)
谷内六郎は、幼い頃喘息の発作に悩まされ寝込みがちな
こどもだった。彼の絵の原風景は療養のために滞在した
千葉県御宿の町だったといわれる。
身心の衰弱は、想像力の増幅装置となり、病んだ子はそ
こに美しい物も恐ろしいものや醜いものも等しく見いだす。

最近、赤ん坊洋品に囲まれて暮している私だが、そこに
描かれている可愛いだけのキャラクターデザインには辟易
している。今はまだ乳幼児の娘には只の意味を持たない形
に過ぎないが、これからさきずーっとあんな貧しいイマジ
ネーションに囲まれて過ごさせる事だけは避けねばと、考
えている。

永年に亘る週刊新潮の表紙画を懐かしむ世代とは別に、今
また若い人の間でも谷内六郎は人気がある。
若いイラストレーターのなかにはあきらかに谷内の影響を
受けている人も多々いるが、そのほとんどが薄っぺらな模
倣に終わっている。それはおそらく彼等彼女等が谷内の絵
を「可愛い」とか「懐かしい」という浅薄なイメーヂでし
か認識していないせいだろう。
谷内の絵の魅力を、あえて言葉で表すならば、むしろ「寂寞」
であり、「荒涼」であるだろう。幼い頃から「命の果つるさき」
を見つめ続けた谷内の感性を、キティちゃんやミッフィーちゃん
に囲まれて合成樹脂で造られた家で育った人間が真似しようと
いうのが違う。彼等彼女等にはまたその世代にしか感知できな
い闇があるはずで、模倣ばかりしていず、まずはそこから始め
るべきなのだ。

谷内六郎は1981年の明日、1月23日急性心不全で亡くなった。
享年56歳
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by shanshando | 2006-01-22 16:02 | ■古本屋の掃苔帖


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