上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 02月 26日

古本屋の掃苔帖 第百九十一回 ジョン・ディクスン・カー

優れた娯楽小説家であることと、過度の飲酒癖には何か因果関係
があるだろうか?
先年亡くなった山田風太郎は、一日にウィスキーをボトル三分の
一空けていたと云うし、中島らもにいたっては、体液の80%位
はアルコール分で出来ているんじゃないかと思うほどの立派なア
ル中であった。
本格推理小説の名手として、乱歩はじめ日本の多くの作家にも影
響を与えたジョン・ディクスン・カーも、相当な飲酒癖の持ち主
だったらしい。しかも、図らずも先ほど「立派なアル中」と書いた
が、彼は自分の飲酒癖を悪癖と考えるどころか、男らしい立派な
事だと考えていたらしく、いくつかの飲酒礼讃の文を書いていると
いう。
おそらくは連続飲酒に陥った為だろうが泥酔状態が日常化して、さ
すがに仕事に差し支えると思ったのか、沈静作用をもとめて抱水ク
ロラールを用いていた時期もあり、その為今度は抱水クロラールの
中毒になった。このへんの悪循環はなんだかやはり中島らもを思わ
せる。山田風太郎のボトル三分の一はまだ穏当なほうかもしれない。

作家ではないが、俳優の中村伸郎がやはり相当な飲み助だったらし
く、毎日晩酌をして眠るために二階の寝室に上がろうとして、階段
があたりまえに真っ直ぐ見えていると、「いかんいかん」とばかりに
引き返してもう一度、階段がぐんにゃり歪んで見えるまで呑み足した
という事を聞いた事がある。身を挺して人を楽しませようとする人は
心に過剰に柔らかい部分が必要で、その柔らかさを維持する為には、
常にアルコールで保湿しておく必要があるのかもしれない。

アメリカで生まれたアメリカ人の彼は、しかしその生涯の殆どをイギ
リスで過ごしている。第二次世界大戦の最中、在英アメリカ人に帰国
勧告が出された時ですら帰ろうとはしなかった。それはそうだろう、
アメリカは嘗て禁酒法などという野蛮な法律を作った国である。そんな
物騒な国に帰るくらいなら、ドイツ軍の爆撃のほうがまだマシだったの
だろう。

飲酒癖がかならずしも命を縮めるものでない証拠には、山田風太郎も
78まで生きたし、中島らもは早死にだが、古今亭志ん生は83まで生き
ている。そうしてジョン・ディクスン・カーも70まで生きて、1977年
の明日、2月27日癌で死んでいる。
今年は彼の生誕百年にあたる、ミステリーファンはこぞって一杯やって
祝うべし。
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by shanshando | 2006-02-26 14:57 | ■古本屋の掃苔帖


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