上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 03月 02日

古本屋の掃苔帖 第百九十四回 マルグリット・デュラス

人生は、その気になって見つめると意味ある偶然の連鎖に
彩られている。
昨日、老人と若者の時空を超えた冥界でのデートという妄
想で文を締めくくったら、今日ははからずもマルグリット・デ
ュラスである。
けっして故意ではないのだ、何故ならほんの数十分前まで
さる間違った情報に基づき別なテーマを私は考えていたの
だから。

昨日のは私の完全な妄想に過ぎないが、今日は「ほんとう
にあったお話」である。
さて、1980年の夏、66歳だったデュラスはヤン・ルメという
青年の訪問を受ける。彼はデュラスの熱狂的なファンで、そ
れまで5年間ほぼ毎日のように彼女に手紙を送っていた。
多い時は、一日数通書いたというから、相手がファンレター
になれている人気作家でなかったら立派にストーカーである。
彼のこの異様なばかりの集中力はどうやら彼のセクシャリティ
に関係があるらしいが、ここではそれに触れない。
とにかく5年間手紙は一方通行のまま出し続けられたが、5
年目のある日、ついに彼は彼女から会いに来るようにという
返事を貰う。そうして出会った二人は、デュラスの死までの
16年間生活を共にすることになる。
ひどいアルコール中毒だった彼女を献身的に支えながら、彼
はやがてその体験を83年にヤン・アンドレアという筆名で「マ
ルグリット・デュラス」という本に綴る。
この「マルグリット・デュラス」に答えるように、デュラスが自ら
を見つめ書いたのが名作「ラ・マン」である。

ふたりの年齢差は38歳、そんな老女と若者の間にまっとうな
恋愛関係が成り立ったとは思えないなどと言うのは、むしろ
愚であろう。恋愛というのはどんな場合もまっとうじゃないの
だから。むしろ、はてしないほどの年齢差、体験の違いが二人
をして愛情と言う得体の知れない、それでいながらそれ無しに
は生きていけない闇に静かに向かわしめたのではないだろう
か。

マルグリット・デュラスは1996年の明日、3月3日パリの自宅
でヤンに看取られて亡くなった。
享年82歳。最後の著書はヤンの協力で書いた「これで、おしまい」
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by shanshando | 2006-03-02 22:57 | ■古本屋の掃苔帖


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