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2006年 03月 07日

古本屋の掃苔帖 第百九十八回 池田満寿夫

池田満寿夫には、若い頃あるパーティーで同席して、つくづく
嫌な奴だと思ったことがあって、死んで九年になる今も市場
などで彼の作品を見るとむしょうに破きたくなる(おいおい)
最近、その池田満寿夫がダリを訪ねた時の逸話を人づてに聞
いて、ダリは本当に嫌な奴だったということ言っていたというか
ら、優れた美術家というものは、やっぱり嫌な奴であるものなの
かもしれない。

富岡多恵子の「壺中庵異聞」は、彼女が若い頃池田満寿夫と同
棲していた時に、未だ無名の池田が江戸川乱歩の弟平井蒼太
に見込まれて豆本づくりをしていた事を描いた小説で、豆本づくり
に関わる人間の狂気が伝わって面白い。
掌に隠せてしまいそうな小さな本に文字と絵を刷りこもうとする作
業は、関心のない人間から見ればまったくの無為徒労に過ぎない
が、往々にして人は無為であるがゆえに没頭するものである。
デティールへの病的なこだわり、採算の度外視など美術工芸に
関わる人間の偏執ぶりには私も永年泣かされてきたので、小説
中の富岡の溜息は人事と思えない。
池田がその当時つくった9冊の豆本は、コレクターが手放さない
ため、一般に公開される機会がなかったが、2002年にピエゾグ
ラフという複写法で再版された。なんでも、この複写法によれば
微妙な原画の質感まで再現できるとかで、この復刻本は原本と
の差がほとんどないらしい。そういえば、アメリカではすでに版画
の販売はインターネットで版元からデータを送信し、買い手あるい
は中間業者がプリントアウトして受け取るようになっていると数年
前にある刷り師から聴いたことがある。

ピエゾグラフによる池田豆本は100部限定で刷られたというが、
その気になればまた刷り増しが可能になったわけで、それだけ
オリジナルの価値が損じたことになるだろうか?
とにかく、かつてはコレクター以外見ることが出来なかった、池
田豆本もそのいくつかの図柄を今はインターネットで見ることが
出来、見てみるとやはりいい仕事をしているのだ。嫌なやつだっ
たけれど折角の機会に話しかけてみれば良かったと、私は少し
後悔した。

池田満寿夫は1997年の明日、3月8日急性心不全で他界して
いる。
享年62歳
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by shanshando | 2006-03-07 15:41 | ■古本屋の掃苔帖


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