上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 03月 10日

古本屋の掃苔帖 第二百一回 高品 格

ピカレスク小説は15世紀スペインに端を発しているらしいが、日本では
やはり「大菩薩峠」あたりがその嚆矢といえるだろうか?開高健の「日本
三文オペラ」と小松左京の「日本アパッチ族」は同じ題材を扱ったやはり
ピカレスクの名作といってよいだろう。しかし、私は日本ピカレスク小説
大賞を勝手にこしらえて贈るとしたら、やはり阿佐田哲也の「麻雀放浪記」
を選ぶ。池波正太郎の梅安シリーズは人殺しが主人公なんだから、ピカ
レスクと言ってもよいのかもしれないが、池波はどこか事の善悪にこだわ
る嫌いがあり、純粋なピカレスクとは言いがたい。
比べて阿佐田哲也は骨の髄までアンチモラルである。

「麻雀放浪記」が和田誠によって映画化された時、多くの阿佐田ファンは
不平をならした。おもな理由は「ドサ健」を演じた鹿賀丈史が甘味が勝ちす
ぎているというものだった。
真田広之の「坊や哲」は、まぁあんなものかもしれないが、もうすこし屈折
が欲しかった。加藤健一の「女衒の達」は女衒というより税務署の役人み
たいだった。(まぁ似たようなもんだが)
名古屋章と内藤陳は及第点、そうして唯一、大出来だったのが「出目徳」
を演じた高品 格だった。

「出目徳」の出目は勿論賽の目のことだが、活字で見ているとやはり容姿に
も目ん玉のイメージがかぶってきて、人並みはずれてつぶらな瞳の高品で
はイメージが違うというむきもあったが、あの目が実に凄みを出していた。
わざと逆モーションをやって、イチャモンをつけさせ開き直るシーンなどは
例えば大目玉の仲代達也が演じたとしたら、なんだかかえって滑稽な感じ
になってしまい。凄みどころではないだろう。高品 格の小さな目だからこそ
何を考えているか読めない不気味さがでる。
図らずも仲代達也をひきあいに出したが、仲代のギョロ目は無表情でいな
がら(無表情だからこそ)多くの劇的なニュアンスをかもしだすが、それは
いわば多弁な無表情であって西洋劇的であるが、高品の目は能面とか仏
像に見る無表情さで映像作品にする場合、このほうが市井無頼のくえない
悪党を演じるのに適している。

高品のあの独特の目は、若い頃高円寺のボクシングジムでプロボクサー
を目指していた時に作られたモノだろう。そののち、映画俳優に転身、出世
作となった石原裕次郎の「嵐を呼ぶ男」でボクサーくずれの用心棒を演じた。
晩年、石原軍団の「大都会」に出ていたのはこの時の縁なのだろうか?
役者というのは、作品に恵まれる事で運命が決していくアナタまかせな商売
なのだなぁ、と思う。
1984年に恐らくは多くの俳優がやりたがったであろうこの役に抜擢されな
かったら、高品 格は昔はアクションでならした事もある地味な脇役として一
生を終えていたかもしれないが、幸い適役を得た事で日本映画史上に記録
される名優となり、その10年後の1994年の明日、3月11日心不全で亡く
なっている。
享年75歳
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by shanshando | 2006-03-10 15:19 | ■古本屋の掃苔帖


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