上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 04月 04日

古本屋の掃苔帖 第二百十九回 升田幸三

坂田三吉といいこの升田幸三といい、将棋指しというのは、
どうも行儀が悪い人の方が人気があるようだ。

「この幸三、名人に香車を引いて勝ったら大阪に行く」
昭和7年、14歳の年に将棋指しになるべく家出した時に
広島の実家の母の物差しの裏に残した有名な書置きだが
そのまま読んでは意味がわからない。解釈は諸説あるよう
だが要するに香車なしで名人に勝てる将棋指しになるという
意味だろう。14歳の小僧が何という大言壮語を、と思うかも
しれないが、考えてみれば人間の14歳はもっとも脳が活性
化している時である。無論勝負には経験がものを言うから、
脳の働きが優れているだけでは勝てないだろうが、幸三少年
が自分の能力に無限の可能性をみたのもあながち根拠の
なかった事ではあるまい。
14歳、もっと昔なら元服の歳である。この歳に今の子供なら
自分の進路を明確に決定するなどということは稀だろう。なん
だか勿体ない気もする。人間自分の可能性に過信しすぎる位
で進路を決めてちょうど良いのではないか?
升田幸三はのちにこの言葉を名人大山康晴を相手に実現し
ている。とにかく、大法螺も吹いてみるものだ。

升田幸三の大言大法螺は、この一言に始まり一生この人の
キャラクターとして世間の認知をうけた。大言するが愛嬌が
それをフォローしたのだ。木村義雄に「名人なんてゴミみたい
なもんだ」と言ってしまった時も、「じゃ君は何だ?」と聞かれ、
「ゴミにたかるハエだ。」と答えて、事無きを得ている。

さまざま語り継がれる大言逸話の中で一番面白いのは、進駐
軍相手の問答だろう。
「将棋は、取り上げた相手の駒を自分の武器として使うが、これ
は捕虜の虐待に繋がるのではないか?」と聞かれた彼は、
「お前たちのやる、チェスのほうこそ取り上げた駒を有効利用し
ないでおくのは、捕虜虐殺だ。第一、女王を犠牲にして王様が
逃げるなんて…」とやりかえす。
あらかじめ失言した時の用心に酒を所望して、酩酊して喋った
あたりはさすがに先を読むのが商売の将棋指しである。

言動に止まらず、指し手も定跡に囚われない独創性を貫いた
升田幸三は、1991年の明日4月5日心不全のため73歳の
人生を閉じた。
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by shanshando | 2006-04-04 17:55 | ■古本屋の掃苔帖


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