上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 05月 27日

古本屋の掃苔帖 第二百五十一回 堀辰雄

堀辰雄は、どうもこそばゆくていけない。
何から何まで甘く感じてしまって、辟易する。
「風立ちぬ」を読むと、見当ハズレなのは判っているが、何故か
いつも「他人の不幸は蜜の味」という言葉を思い出してしまう。
勿論、堀辰雄にとって同病の婚約者の不幸が「蜜の味」だった
わけはなく、読んでいるこちら側が作品を通して感じる死への
陶酔に気恥ずかしさを思ってしまうだけのことだが。

古本屋を始める前の20代、家で独り酒を呑む時の肴がわりに
よく山田風太郎の「人間臨終図鑑」を拾い読みしていた。
風太郎の巧みな塩梅による文章は、他者の死を読むことの陶
酔を嫌味のない酒肴にまで高めている。大人の味なのだ。
生も死もひとしく淡々と見つめようという態度は、一定以上の歳
を経てようやく身につくものなのだろう。
堀辰雄が30代のなかばに書いた「風立ちぬ」は、およそ2年の
月日をかけて磨かれた作品であるが、どうしても甘い感傷の嫌
味を感じさせてしまうのは、30代という年齢の若さの故か、それ
とも作者自身が同じ死病に罹っていたせいであるか今の私には
判らないが、何時か私も癌にでもなって自らの死と直面する時
が来たら、この作品をこそばゆいと思わずに読めるのかもしれ
ないと思うのだ。

1953年昭和28年の明日5月28日は、小康と不調を繰り返し
ながらようやく48歳まで生きた堀辰雄が突然の大喀血とともに
この世を去った日から53年めの命日にあたる。
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by shanshando | 2006-05-27 15:50 | ■古本屋の掃苔帖


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