2006年 06月 03日
帝王学という事が日本で、現代にも通じるような意味で考えられ始め たのは、徳川将軍四代にあたる、この家綱の時であったらしい。 帝王学は、学という字を使ってはいるが勿論、体系的な学問ではなく、 従って定まった概念はないが、ここで云うのは、いわば君主の処世術 とでも云うべき物のことである。 数え年11歳で将軍宣下を受けた家綱は、先代家光が残した譜代のブ レーン達によって、「でしゃばらない将軍」に育て上げられた。 王はでしゃばらず、余計な口を挟まず、ただ端然と君臨しているべき である。政治は官僚の手によって行われる。王はただ専制に大義名分 を与えるためだけに存在していればよろしい。 家綱に対して行われた調教の成果をしめす逸話がある。 ある時、食事に出された吸い物に髪の毛が一本混じっていた。家綱は これを静かに箸で取り除いた。それに気づいた小姓がこの椀を下げて、 新たな物に取りに行こうとすると、家綱はそれを途中で捨てて、空の 椀を台所に持って行くべしと命じた。そうすれば通常のお替りの扱い になり、不始末によって罰される者を出さなくて済むというわけだ。 美談である。権威を恐怖によって知らしめるのではなく、徳をもって 知らしめるというのは、いかにも日本人の好む所であり、現代の皇室 報道に使われる徳の演出にも通じる物がある。 可愛そうなお年寄りや子供たちを、専用列車やリムジンに乗って見舞 われる天皇陛下や皇后様。まことに高徳というべきだろう。いっそ、 専用列車やリムジンを売り払って、施しをされては如何だろう? 徳川封建体制の安定のために考え出され、国民に刷り込まれた徳とい う矛盾まみれの発想を拭いさらないかぎり、日本は本当の福祉国家に はなりえない。 明日6月4日は、先代までの武断政治に終止符を打ち、徳による文治 政治を始めた(時の)江戸幕府4代将軍徳川家綱の命日にあたる。 柔らかな専制政治は慢性の病に似て、人を蝕む。
by shanshando
| 2006-06-03 16:43
| ■古本屋の掃苔帖
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