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上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 06月 12日

古本屋の掃苔帖 第二百六十回 村田英雄

甲(かん)の声と、乙(おつ)の声という事を、あれは確か吉川潮の
「浮かれ三亀松」か「江戸っ子だってねぇ、広沢虎三一代」で読んだ。
甲とはつまり高く張り上げる声、乙とは低く唸るような声。
元来江戸の音曲では甲の声が喜ばれ、上方では乙の声が喜ばれ
たという、なるほど昔々の音曲にはあまり馴染みがないが、これを
三波春夫と村田英雄にあてはめると判りやすい気がする。

吉川さんの本を読むまで、考えてみたこともなかったけれど、そうい
えば私なども、関西に住んでいた子供時代はどすの利いた村田英
雄のほうが好きで、キンキラキンに明るいイメージの三波春夫はイ
マイチだった。三波の良さが判るようになったのは、上京して来てか
らのような気がする。
三波の唄は例えば「チャンチキおけさ」なども庶民の唄だが、どこか
サラリとしていて陽気で情のこわさを感じない。比べて、村田の「皆の
衆」の庶民は、こわい情を秘めていて、どうかすると暴動でも起こしか
ねない感じがする。
山谷からは大きな暴動は起きないが、釜ヶ崎からは起こる。それは単
に東京の方が治安が行き届いていて、大阪は行き届いていないという
事ではなく。やはり民情の違いだろう。
大阪の街のあの賑わいは、「事と次第によっては黙ってヘン」という民
衆パワーによって作られている。
そんな大阪で1970年に開かれた万博のテーマソングは、残念なが
ら村田ではなく、オリンピックに引き続き三波だった。
村田の声は、血を沸き立たせる庶民の祭りには似合うが、「進歩と調
和」の官製の祭りには似合わなかったのだろう。

大阪の街も段々整備され、天王寺公園脇のカラオケ屋台なども強制
撤去されたと聞くが、お上のクダラン美意識などによる統制など、いつ
までも大人しく受け入れている大阪庶民じゃないと信じたい。
街は生活者の活気で彩られているのが一番美しいのだ。

明日、6月13日は2002年に糖尿病の悪化から、肺炎をおこして73
歳で亡くなった村田英雄の命日にあたる。
ああ、大阪のどぶ臭い横丁の串カツ屋で呑みながら、「王将」を「皆の衆」
を聞きたい。

by shanshando | 2006-06-12 17:05 | ■古本屋の掃苔帖


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