上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 08月 18日

古本屋の掃苔帖 第二百九十二回 フェルディナン・シュヴァル

いやぁ脳が蕩けるほど暑いですね。
気をつけて歩かないと、頭をあまり傾けたりすると、耳から
こぼれますよ、あれが。そう、あれが。

「こんな日には、なんだか生きている事そのものが無意味
のような気がする」なんて云ってたヒトがいましたが、
ハッキリ云って、その通り!人生は無意味の蓄積です。
でも、だから生きるに足りないか?というとそれは大違い。
だいたい意味なんてものを追い求めると人間不幸にしかな
りません。
今日の主人公は周囲にきちがい扱いされながら、巨大な
無意味の集積を築いた真の偉人!
フランス ドローム県オートリーヴに理想宮という建築を一人
で建てちゃった郵便配達人フェルディナン・シュヴァル さん


論語に「四十にして惑わず」という言葉があって、不惑なんて
申しますが、フェルディナン・シュヴァル さんがこの完成まで
に33年を要した大事業に着手した歳は、その不惑を三つばか
り越していました。一度目の妻と不遇のうちに死に別れ、再婚
をしたばかり、転職の末に郵便配達人になってから12年目。
ある日いつもの配達の道を歩いていたシュヴァルさん一個の
石につまづきました。たぶん考え事でもしていたんでしょーね。
ライナー・チムニク作の「レクトロ」の主人公もさまざまな仕事
を経験するひとつに、郵便配達人がありますがどうもヨーロッ
パの郵便屋さんは、空想癖があるというか、ボーッとした人が
多いようです。
さてシュヴァルさん、自分をひっくり返した石を手にとってシゲ
シゲと見てみました。するとこれがどーにもいい格好をしている。
素晴らしい!思わずこれを拾って帰った。翌日また同じ場所に
行ってみますと他にも素晴らしい石が落ちている。
「これは自然が与えてくれた彫刻だ!」と感じたシュヴァルさん
それから配達のたびに石を拾っては持ち帰り、二度目の妻の
持参金で買った土地にこれを積み上げ始めた。終いには猫車
を持って配達に出掛けたといいます。
郵便局がよく許したと想いますが、当然のように村人には悪い
噂がたちまして、キチガイ扱いとなるわけですが。
大きなお世話でございまして、人は自分が意味や価値を他者
と共有しているという幻想のなかで生きていて、そこから外れた
ヤツはみんなキチガイにされてしまう。
しかしシュヴァルさんは、人生の辛酸をなめた末に不惑に達し
た人、くだらない中傷なんかに挫けることなく33年ついに完成
した理想宮は、今や地元の名所になっているという。

1924年の春、87歳のシュヴァルさんは古い掛け時計の振り子
をなおそうとして、椅子から落ち、その年の明日8月19日天に
召されます。
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by shanshando | 2006-08-18 17:18 | ■古本屋の掃苔帖


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