上々堂(shanshando)三鷹

shanshando.exblog.jp
ブログトップ
2006年 09月 21日

古本屋の掃苔帖 第三百八回 横井庄一

想像できる範囲内で、一番辛いことってなんだろう?
喉元過ぎれば熱さを忘れる、というように、実際自分が過去に
体験した辛さというのは、時間の経過と供に薄らいでいく。
特に、当事者が自分一人の場合、貧困も病苦も後になれば、
左程のことはなかったように感じられる。
あの時は辛かったけど、今生きてるんだからいいやと思える。
しかし、他者が絡んで来る辛さというのは、なかなか癒し難い。
その人と会ったり、思い出したりするたびに辛さが蘇る。

戦後四半世紀以上経って、グアム島で発見され、世間に注視
されながら帰国した横井庄一元陸軍伍長は、兵隊に行く前に
習い覚えた技術を生かして洋服の仕立屋としての生活を志す
が、事業が波に乗らなかったのか、廃業して耐乏生活評論家
なるものになり、全国を講演して廻り、担ぎ上げられたのか、自
分から望んだのかは知らないが、参議院選挙にも出馬したりし
ている。
戦前実直な職人を目指した彼にとっては、人より永い戦中を経
て、戻って来た戦後日本での生活は、なんだか身の置き所のな
い、宙に浮いたような生活ではなかっただろうか?
グアム島の密林での生活の辛さは、人に語るうちに対象化され、
薄れて行ったかもしれないが、過剰な人の渦に飲み込まれた、
彼にとっての戦後は尚辛いものだったような気がする。

明日9月22日は1997年に心臓発作で死亡した横井庄一さん
の命日である。
享年82歳
[PR]

by shanshando | 2006-09-21 16:53 | ■古本屋の掃苔帖


<< 古本屋の掃苔帖 第三百九回 ジ...      古本屋の掃苔帖 第三百七回 桜井忠温 >>