上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 11月 10日

古本屋の掃苔帖 第三百三十八回 長谷川如是閑

今朝は初冬にふさわしい透き通るような朝だった。
ここ一週間、風邪の養生のため早寝をしているので、朝はどうしても
早く目が覚める。咳であまり眠れなかった日までも早く目覚めるところ
をみると、歳のせいかもしれない。
我が家は、遠慮も謙遜も全部振り捨てた上で、何処へ出しても恥ずかし
い、正真正銘のあばら家だが、通りから奥まっているので静かな事が唯
一の取り柄である。
カーテンを開け、手入れの行き届いた庭(お隣の)を眺めていると、清々し
い空気がガラス越しにも感じられるようだ。
「硝子っていうのはなにを食べるのかね?」と言ったのは土方巽だが、硝
子というのは確かに身体意識の何かに響くものがある。
ウチのは残念ながらアルミサッシだけど。それでも空がこんなに透き通っ
ていると、咳で疲れた肺腑の中が透明な鉱物質に変化していくような幻想
に捉われる。
食欲が落ちているのを幸いに、このままモノを喰わない身体になれないも
のかしら…。
アッ!硝子が汚れてる!そういや永いこと窓掃除しないからなぁ。
普段さしてキレイ好きでもないくせに、気になりだすと止まらない性格。
さっそく室内の掃除をすませ、硝子磨きを始める。
まだ微熱があるのに何やってるんだろ?

「自分の心理的・生理的条件に応じた日常生活を気ままに送り、」
「弱い身も大事にすれば長持ちする」
幼少時から病弱で、医師に30までは生きられないだろうとされた長谷川
如是閑は、その方法論を貫いてついに93歳の長寿を全うした。
生涯、酒もタバコもやらず、妻帯もしなかった。どころか恋人あるいはそれ
に類する存在の影すらなかったそうだ。女は身心の毒というわけか、とても
見習えそうにないや。
大正7年、シベリア出兵や米騒動による報道を根に持った時の寺内正毅内閣
から受けた筆禍事件の責を詰め腹を切らされる形で取らされ、大阪朝日を退
社してからは、心理的条件にあわない宮仕えもやめ、しかし現実的合理的リ
ベラリズムを堅持して執筆活動を生涯続けた。
要は、単なるストイシズムではなく、自分にとっての優先順位を極めて、命
を長持ちさせたというわけだ。

「酒もタバコも女もやらず、百まで生きた馬鹿が居る」というが、まさに酒もタバ
コも女もやらなかった長谷川如是閑は残念ながら百まではもたなかった。馬鹿
じゃなかったからかもしれない。考えたり、読書したりするのも長生きの差し障
りになるというから。
漱石より8歳下で、事実互いの小説を評論しあった長谷川如是閑は漱石が没し
てから実に53年の齢を経て、昭和44年の明日11月11日老衰のため死亡した。
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by shanshando | 2006-11-10 17:56 | ■古本屋の掃苔帖


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