2006年 12月 15日
小熊英二著「日本という国」が大変売れているらしい。 (新刊書店でという意味です。今のところ上々堂には在庫 りません。売ってください是非とも。) この本と、半藤一利の「昭和史」を並べて読むとおもしろい。 近代日本史について、小熊氏が強調しているところを半藤氏 が意識的にぼやかしていたりするのが、よく判る。 顕著なのが、昭和天皇の戦争責任問題で取り沙汰される事 が多い「近衛上奏文」についてである。 小熊氏は、1945年の2月14日に上奏されたこの文書により 、日本の敗戦が必至のものであるという情報を昭和天皇が得 ており、この時点で講和にむけて動き出すよう指示しておれば 沖縄戦や東京はじめ大都市の空襲。広島・長崎の原爆。更に は、ソビエト参戦によって生じたシベリア抑留。中国残留孤児 問題。ひいては朝鮮半島の分裂に至るまでの悲劇を未然に防 げたはずだ。と指摘しているのに対し、半藤氏は完全に意図的 にこの事実をぼやかして書いている。 まぁ、半藤氏は置いとくとして、小熊英二のこの著書のこの部分 に関して、噛み付いているネット右翼のみなさんの主張を取りま とめると大体以下のようになる。 近衛上奏文は、「軍部の一部に共産主義勢力と手を結んで、日本 の国体に変更(完全な共産主義革命は目論んでいないと、上奏文 にも書かれている)を加えようとしているので、このまま一億玉砕な どして世情が乱れれば、彼らの思うがままになるから、そうなる前 に人事の刷新をしたほうがいいですよ。」と人事のことを言っていて、 それに関する天皇の答えも、交代する人事として具体的に名前が あげられた山下大将について「もう一度、戦果を挙げてからでない となかなか話は難しいと思う」と答えているだけで、戦争の続行を 指示したものではない。というのと、 天皇は傀儡に過ぎなく、統帥権も名目だけのものに過ぎなかった んだから。戦争終結はおろか、軍部の人事にだってなんら権限は 持っていなかった。権限がなかった人間の責任を問うことは出来な い。というもの。 私も、今更昭和天皇の戦争責任など取り沙汰したって、しょうがない と思うが。この上奏文およびそれが上奏されたおりの天皇と近衛の 会話として伝えられるものを読んでいると、新たな怒りが涌いてきた。 二人が、一貫して心配しているのは「国体の護持」であり。どこにも 戦況から考えて予想される、本土空襲本土決戦において失われる 非戦闘員の生命に関する言及がないのだ。 つまり、戦後様々な側近たちが擁護のためにでっちあげてきた「天皇 は戦争に反対だった」という情報は、ひとえに自分と自分の一族の安 全と安泰を祈ってのものであったので、国民なんぞ死のうが生きよう が、悲惨なめに遭おうが知ったこっちゃなかったのだ。 その後、東京大空襲の焼け跡を視察して、その惨状に漸く講和への 意向を告げたといわれるが、それは身近に戦争の惨状を見て、怖くな ったというだけで、別に国民にすまないとか、申し訳ないとか思った訳 ではないのだ。 まぁ帝王というのはそういう風に育てられるんだから、一昭和天皇の 人格上の欠点とすべきではないだろうが、やっぱり彼個人を処刑すべ きだったかどうかは別にして、あの時点で日本は天皇制を廃止するべ きだったのだろう。 敗戦後東久迩宮内閣で国務大臣についた近衛文麿はその年の12月 6日戦犯としての逮捕命令がだされた事を知り、出頭期限日にあたる 1945年の明日12月16日荻窪 荻外荘において青酸カリを服して 自殺した。自分が自供することで昭和天皇に罪が及ぶのを避けるため で、国民および外国の戦争被害者に対する謝罪ではなかった。 享年54歳 ついでに書いておくと、ネット右翼の諸君の小熊氏にたいする難癖は、 不正が発覚した時に責任の盥回しをする官僚の答弁みたいである。 この部局は、この人は当時それを所管する立場になかったから責任な いでしょ。なんて云ってどうなるの?そんな責任をとらないような国家 元首を据えてたこと自体が問題で、今も何の積極的な理由なくそのポ ジションを守っている。山本七平が「本来、民主主義というのは誰が責 任をとるかということを明確にして事を決めるものだけど。戦後日本の 民主主義というのは誰が責任をとるか不明確にするために用いられて いる。」という意味のことを言ってたけど、その風潮の発端は明らかに 戦後天皇を裁かなかったことにあると思う。 イベント情報の詳細はこちら
by shanshando
| 2006-12-15 16:45
| ■古本屋の掃苔帖
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