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上々堂(shanshando)三鷹

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2007年 03月 16日

ダスキンさん

「あ、この本ウチに昔ありました!」
古本屋をやっていて、もっとも嫌な言葉の一つである。
「昔あった」=「もういらない」と続くからだ。
「懐かしいな、買っていこう!」になる場合もタマにあるけど、大抵
「懐かしいなあ、懐かしい本ばかりだ!」と続いて、買わずにサヨウナラ。

買って戴かなくても、「家にある本も買ってもらえますか?」というのも
あって、これは本によっては大歓迎なのだが。残念ながらダスキンさん
が指し示している本は、均一棚の吉川英治全集「新平家物語」なのだ。

ダスキンさんは、『元気一杯30代、高校時代はバレー部のキャプテン
やってました』タイプのおねえさん。(どんなタイプやねん!)邪気、悪気
のまったくない笑顔でハキハキ喋る。
「この全集が全部揃っててねえ、父が買ったんですけど。時々一万円
札を挟んでるんですよ。」
え?ナニナニ面白そうな話じゃないですか?ダスキンさんたら、お話上手!
当店では、一万円札入りの吉川英治全集は喜んで買わせて戴きますで
ございますわヨ!

「イエネ、ウチは父が月に2日か3日しか家に居ない家だったんですけど、
父が居ない時に急にまとまったお金が必要になって母が電話すると、
『じゃあ水滸伝の何番を見てごらん。』とか『宮本武蔵の何番を開いてごら
ん』とか云われて、見てみるとちゃんとそこに必要なだけのお金があるん
です。」
ウーム、吉川英治全集は確か53冊。しかも結構重いから、その中のどこか
にお金を隠すのも探すのも大変だけど。銀行に預けておいてカードで降ろ
させるよりもワクワクするし、ワクワクした分だけ、離れているお父さんを身近
に感じられる。なんてコニクイお父さん!

ダスキンさんのお父さんは単身赴任だろうか?イヤイヤ、この洒落っ気の
あるお金の渡し方からして、船乗りさんかもしれない。
お父さんのことを話すダスキンさんはとてもいい顔で、中々一緒に居れない
家族にお父さんが注いでいた愛情が、この元気一杯、迫力満点のダスキン
さんを育てたんだナァ。

ダスキンさんが帰った後で私は一応(あくまでも一応ネ!)、棚から下ろした
「新平家…」を繰ってみた。
イヤ別にひょっとしたらとか思ったわけじゃなくって、あくまでも確認ですよ。
確認。

by shanshando | 2007-03-16 14:00 | ■原チャリ仕入れ旅■


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