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上々堂(shanshando)三鷹

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2007年 12月 11日

空腹記 2

1980年代の後半、飽食の時代といわれた世間と逆行して、
非常にエンゲル指数の高い生活をしていた私は、食うものが
ままならないくらいだから、当然着る物など何時も着たきり雀、
銭湯など週に2回も行けない。いつも稽古場の流しで深夜
行水ですましていた。湯沸し機など付いていないから、冬でも
水である。
金が無くって、顔色が悪く、着たきり雀で、汗臭い。いくら私が
キムタクと瓜二つの美男子でもこれでは女の子にもてる筈が
ない。同世代のサラリーマンたちは高級をもらった上に、当時
流行の財テクというやつで不労所得を得て外車を乗り回してい
るのに、私と来たら場末の中華屋のレバニラも食べれないのだ。

ところが世の中案外捨てた物でもなくて、そんな私に彼女らしき
ものが出来たのだ。「らしきもの」とあえて断るのは相手はちっとも
そんな考えは持っていなかった可能性があるからで、事実多少の
哀れみを感じてつきあっていてくれたのかもしれない。
とにかくある夜私は彼女のお部屋にお邪魔するはこびとなり、まぁ
なんだかかんだかで夜が明けた次の朝、彼女が朝ごはんを作っ
てくれるという。
もう私は内心有頂天である。上京以来女性のじょの字も縁がなか
ったのに、いきなりお泊り~朝ごはんのフルコースである。もう天
にも登る気分で台所に立つ彼女の後ろ姿をみつめながら、煙草を
ふかして(あの頃はあの信じられない悪習から抜けれないでいた。)
待つこと小一時間。やがて卓袱台の上に並べられた食器の数々。
私は人間が卑しいので、出会った人の名前はすぐに忘れても、食
べ物に関する記憶はわりと覚えているほうなのだけど、あの時の
メニュウだけは忘れようにも忘れられない。

まずキャベツの塩もみである。次にキャベツの炒め物、そうしてキャ
ベツの味噌汁、そうして極めつけはキャベツの炊き込みご飯。オール
キャベツなのだ。
正直言って私はこの時の朝ごはんより美味しい朝ごはんをその後も
その前も食べたことが無い。
くどいようだが世の中はまさにバブル前半の飽食の時代である。テレビ
は今と変わらぬグルメ番組ばかりやっている時代である。そんな時代
に取り残された貧乏な若者二人が遅い午前に黙々と食べるキャベツ
だらけのご飯。まさに青春定食というべきか!

申し訳ないというべきか、人非人というべきか、今私は彼女の名前を
思い出すことができない。程なく別れたという記憶はあるが、何が原因
だったか、その後どうしているかも勿論わからない。しかしあのご飯は
しっかり覚えている。美味しかった!ありがたかった!何より味噌汁が
うれしかった!

そう、そういえばデザートがついていて、それは実は彼女の朝の常食
だったのだが、牛乳にお酢をいれて常温で一週間放置したもの。
上澄みに透明の液が溜まってきて、下がゼリー状になった時が食べ頃
だと言っていた。今考えれば、それを漉すとカッテージチーズと乳清
にわかれるわけだが、その時はそんなことは知らず、ただの腐った
牛乳じゃないかと思いながら、それでも、素晴らしかった朝食の余韻
というか、感謝というか、とにかく勢いで私はそれも頂いた。
そうして次の日から激しい下痢で苦しむこととなった。
貧乏生活で胃は丈夫になってたけど乳糖不耐性の腸は治ってなかっ
たのだ。

by shanshando | 2007-12-11 14:31 | ■原チャリ仕入れ旅■


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