2008年 03月 26日
「ひとに売る自伝を持たぬ男らにおでん屋地獄の鬼火が燃ゆる」 …というのは寺山修司の有名な歌だけど、ひとに自伝を売るとは どういうことだろう? よく書く話だけど、古本屋の隠語に饅頭というのがあって、それは 葬式饅頭に喩えた、自費出版の自伝などのことで、これらは通常 値段がつかない。 通常とことわるということは、当然例外があるわけで、中には売れる 自費出版ももちろんありえる。(ほとんどないけど) うーん例えばこんなのはどうだろう、 迷宮入りになった大事件の真犯人はじつは私だ!と告白した本を 死後配布するのである。 告白することで遺族は迷惑するかもしれないが、本人はもう平気な わけだし、まずそのためには充分な話題性のある事件を自分で起 こさなければならないが、なーに別に本当に真犯人である必要は ない。記述の内容が微にいり細に入っていれば、世の中の話題は 浚えるだろう。 上手に書けたにしろ下手に書けたにしろ、遺族があらかじめ知れば、 葬式で知人に配ってもらえる可能性はなくなるから、存命中に自分で 手を打って、誰か第三者に依頼して、関係者およびマスコミの手に渡 るようにする。 人のまさに死せんとするにその言うやよし…というのは論語だったか、 とにかくみんな死に際して、そんな冗談をするとは信じないから、ある 程度信憑性がある内容だったら反響はかならずある。 あまり洒落になりにくい事件はいけない。三億円事件などでこういう本が 出たのは、残虐性が乏しく、はっきりした被害者もいない事件だったか らだろう。 勿論時効になっていることが必須条件だから、準備は少なくとも10年前 くらいから始めねばならない。 サラリーマンのお父さんで、引退後の趣味、目的に窮している人には是非 ともお勧めのライフワークである。 まじめ腐ったり、または過剰に謙虚ぶってみせたり、威張ったりするような 饅頭はお金を貰っても読みたくないが、こういう洒落の聞いた饅頭なら読 んでみたい。 なんでこんなことを考えたかというと、最近自分の履歴だとかルーツを精神 の拠り所にしている大人に立て続けに会って気持ち悪かったからである。 一人は社会に出てからは必ずしも成功しなかったけど、なにしろ出身校が 有名校で、もう事あるごとに大学時代の思い出や人脈を語りたがるオジサン。 誰にとっても思い出は美しい側面を持っているのだから、語りたくなる気持ち も判らないではないが、聞いているほうは醒めていて、むしろ哀れんでいるの に気づかない。他者は誰も評価してくれないから、自分で吹聴して悦に入る。 この人などは結局、「ひとに売る自伝を持たぬ男ら」ということになるかもしれ ない。 もう一人はご本人も社会的に成功されていて、人からも評価されているのに、 やたらと自分の先祖の自慢をしたがる人で、思想的には完全に右翼なのだが、 つまり天皇制愛好者に多い天皇の血脈を自ら尊ぶことや、人にそれを強制する ことで暗に血統、由緒の正しい自分の価値も強調しようとする人の典型で、話し たり書いたものを読んでいると、自分に自身がないのがよく判る。これも別な 意味で「ひとに売る自伝を持たぬ男」なのかもしれない。 そういう観点で言えば、世の中でよく批判される学歴詐称や、血統の詐称はパ ロディとして面白い。 まぁそれを信じさせて、金品などを巻き上げるのはいけないが、考えてみれば そういう本来のその人の内容より、レッテルのほうを信じてしまう人には程よい お灸というふうにも思えないではない。 あの有栖川宮殿下はどーされているのだろー?
by shanshando
| 2008-03-26 14:08
| ■原チャリ仕入れ旅■
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