<   2008年 09月 ( 9 )   > この月の画像一覧


2008年 09月 30日

肥大

古本屋で接客していると、世の中にはよくもこれだけの様々な書物に
対する様々なニーズがあるな、と感心する。
必要とする動機は探究心、好奇心、快楽、執着等等、
私の生まれた田舎町など、人口の殆どがテレビを通して入ってくる情報
刺激だけで充足して人生を終える人が殆どで、それ以外の話を公共の
場所。例えば職場や飲食店などで話題にすると、瞬く間に変わり者として
町中に知れ渡ってしまう。
たとえ人口が10万だろうが、5万だろうが、あるいは百人しか居なかろうが、
それぞれが別の人格なのだから、それぞれに違う関心を持っていても不思議は
ないはずだが、その町では、男ならば自動車とプロ野球の話以外をする奴は、
完全にのけ者にされたし、女ならばアイドル歌手の話題についていけない奴
は仲間はずれにされた。
今はネットという情報入手の手段も増えたし、スポーツだってサッカーのほうが
野球より人気があるらしいが、結局ちょっと間口が広がったぐらいで、右へ倣え
の体質に変わりはない。

まぁ、東京だって実は似たようなものだろうと、偶々電車に乗り合わせた人々の顔を
見ていると思えてくるが、古本屋の店先に座っていると、実はそうではないことを
思い知らされる。

様々な脳が求める様々な情報、この商売を始めなかったら、私自身一生知りえ
なかっただろう、様々な知の世界。快楽の世界。執着の世界。それらに日々晒さ
れて、古本屋の脳は表面肥大してブヨブヨになる。
ひとつの事象を何処までも突き詰めずに、表面的な知識だけ得て、知った気に
なっている醜い脳。

最近延髄の辺りに感じ続けている痛みは、水死体のように肥大した脳の表皮が
頭蓋からはみ出しかけているせいではないかと思う。
[PR]

by shanshando | 2008-09-30 18:54 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 26日

綺麗な悪夢

遠縁だが、欠かすことの出来ない義理があって法事に出掛けた。
こういうのを功徳と言っていいものだかどうだか判らないが、お陰で
久しぶりに海を眺めることが出来、気持ちは伸び伸びしたのだが、
いささか強行軍で身体が疲れたせいか、昨夜は酷い悪夢で、
どのくらい酷いかというと、もうここにもう一度再現するのも嫌なほど
の悪夢なのだが、それはまぁ置いておいて、悪夢と言うのは、なんで
いつも冴えたビジュアルなのだろうと、夜中に冷や汗を拭きながら
考えた。
不思議と幸せな夢(めったに見ないが)は凡庸なビジュアルが多く、
悪夢には、天才的な映像作家にも引けをとらない優れたビジュアル
が多い。
展開も冴えている。ストーリーらしきものがある場合は、その設定も
素晴らしい。
脳の中には、自覚できていない様々なイマジネーションが眠っていて、
それを、なるだけ言語的な制限に縛られず再現できれば、凄いアーテ
ィストになれるのかもしれないが、それはとっても怖いことだ。

夜半に目覚めたまま結局眠れず、外が白むのを待って、浴室で髪を
切った。髪で包まれた頭蓋の形を確認しておきたくなったのだ。
[PR]

by shanshando | 2008-09-26 13:35 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 20日

ああ恥ずかし、

昨日の間歇的に強まる雨を見ていて、ちょうど一年ぐらい前の
恥ずかしい出来事を思い出した。
私の中にはこういう恥ずかしい思い出がいっぱい詰まっていて、
時に目の前に見たものに触発され、思い出し、身を捩じらせるのだ。
他の人にも、似たようなことはあるのかもしれないけど、私は脳の構造が
単純なせいか、思い出した恥ずかしさを押さえていることが出来ずに、
つい、口や態度に顕われてしまう。
傍にいて見ている人にとっては、何で急に身を捩って呻いているのか判
らないから、不気味だろうし、少なからぬ人がそんな私を狂人だと思って
いるかもしれない。

一年前のある午前、
やはり台風の影響で、上々堂から興居島屋に戻るのにバイクに乗れな
かった私は、柔な構造のビニール傘一本を頼りに三鷹駅に向かって
歩いていた。
昨日の台風の風は大人しかったようだが、その時の台風は風もやはり間歇的
に強く、道のりの半分くらいで既にビニ傘は殆どその用を果たさなくなっていた。
消防署前を通り過ぎ、スーパーの丸正前までくれば、駅は間もなく。
しかし傘をつぼめ気味にしながら必死で前進しても、向かい風のため中々進めない。
やはり今と同じく連日の買取に疲れ果ててていた私は、もう傘など投げ出して、
そのまま水溜りだらけのアスファルトに寝転んでしまいたくなっていた。
その時、右手前方に深い軒のビルがあり、2、3人の人がそこで雨避けをしているのが
眼に留まった。
幸い軒は深いだけでなく、幅も充分にあって私が入れて貰っても大丈夫なようだ。
私は、雨脚がやがてすぐに弱まるのを期待してそこに飛び込んだ。
先客は女性ばかり、私はなんとなく会釈をして、お仲間に入れてもらった。
いや私としては入れてもらったつもりだったのだが、女性たちはなんだか不審げに私
を見ている。

雨脚は相変わらず激しくなる一方で、これはひょっとすると今まさに台風が通過している
ところなのかもしれないと、私は携帯の時計と空模様を見比べながら考えていた。
周りの商店主たちも店の前に出て心配そうに空を眺めている。
「なんとか午後には治まって欲しいもんだ。」そのどの顔にもそういう気持ちが読み取れる。

そんな強い雨の中、軒の下にはほぼ十秒に一人の割りで人が増えていく、どれも女性ばかり、
さすがに私は不安になりだし、これはひょっとしたら雨宿りの人たちではないのかも
しれないと思い出した。
よく見ると、周囲に軒の深いビルは他にもあるのに、人が溜まっているのはここだけなのだ。
私はおずおずと再び傘を開き、未だ強い雨風の中を数歩歩きだし、なるだけ自然な
態度で今まで私がいた場所を振り返った。
そこにはピンクを基調にした地に丸っこい文字でこう書かれていた。
「三鷹レディースクリニック」
行列は受付開始を待つ患者さんの列だったのだ。



ああ、恥ずかし、
[PR]

by shanshando | 2008-09-20 13:41 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 19日

えびす大黒コレクター?

いやぁ、この間料理本でやられた腰が治療院のおかげで少し良くなったと
思ったら、今度はサライとダンチュウのバックナンバー10年分で、一挙に
逆戻り!
もうあんまり雑誌は扱えないんだけどなぁ~。
場所とるし、保存が面倒だし、売れないし……
まぁ、上の二つは百均にすれば、喜んでくれるお客さんもいるし、
でも雨の日に運搬するのはホント大変なんですよ~

雨の日はお客さんの出足も良くないけど、興居島屋にはけっこうこんな日に
面白いお客様がきたりする。
今日今のところ一番印象的だったのは、古い売り出しチラシばかり六点買って
行ったひと。
それもえびすさんと大黒さんの絵のあるものばかり!
昔はこーゆーモノはオッサンコレクターにしか売れなかったものだけど…。
なんと今日の人は20代の綺麗なお嬢さん!!

一枚三百円で、まぁ買いやすい値段だということもあるし、こだわって集めれば
面白いに違いないだろうけど、もしあのお嬢さんが親御さんと同居の場合、
親御さんは心配していいものだか、安心していいものだか面食らうでしょうなー!

しかし彼女がまとめ買いしてくれたお陰で、壁が寂しくなったなぁ~
しかし、たった三百円のもので安くない店賃の壁面を大々的に使うのはウチくらい
だろーなー。
イヤイヤ、こーゆー素人ぽさが持ち味?ですか。
[PR]

by shanshando | 2008-09-19 18:05 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 16日

料理本

週末から日曜にかけて、営業時間が荒れ気味ですみません。
わけあって、先週は休み返上、そこへ持ってきて買取の嵐、
日曜には品川まで料理本数千冊を買い取りに行き。
その整理運搬で月曜もつぶれ、もう身体は完全に潰れちゃいました。
腰はヘルニアかもと言われ、今週はなんとか時間作ってレントゲンを
撮らなきゃいけないらしいし、耳はやっぱり片一方低音が聞こえない。
肩は五十肩だし、耳の影響からか眩暈がするし、腹は数日下りっぱなし。

きたねぇなぁもー、
イヤでも実際、数ある不調の内でも、是が一番実は応える。
買取先が不案内な土地だったりすると、トイレを借りられる場所の検討も
つかず。コンビニ二軒に断られて、漸く見つけた公園のトイレのドアーが壊れて
たりして、しょうがないから片手でドアー押さえながら用をたしたりして、
ここはニッポンかー!?

この夏はどちらさまでもキツかったらしく、久しぶりに見た同業さん達は
揃って愚痴の大合唱。
古本屋で愚痴っぽいのは私の専売特許かと思ってたけれど、いやいや
これは職業病らしい。

まぁねえ、いくらキツくっても結局なんとか続けていくしかないんだよね。
誰もお嫁に貰っちゃくれないし……。
(五十間近で、故障箇所だらけのこんなオッサンでよかったら、いつでも
お嫁にいきますわ!!)

とにかく、上々堂では新しい料理本が大量入荷!
乞うご期待!
[PR]

by shanshando | 2008-09-16 17:58 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 12日

質と量

「質を支えるのはどんな時代でも量なんだ」
というのは、立川談志著「現代落語論」の一説だったろうか。
言葉はちょっと違うかもしれないけど、要するに質の高い芸、
一般受けはしにくいけど、玄人は唸らせるような芸というのは、
大衆受けする大多数の素人にも判りやすい芸人の存在によって
支えられているということだ。

古本屋もおんなじだね。
結局、均一や文庫などが売れてくれるから、一部のマニアむけの
商品も売っていられる。
だけどね、量というのはまさに量だから、場所をとる。輸送に手間は食う。
そこをなんとか効率よくするのが経営の知恵ということだけど、これは
実は知恵以上に体力の問題であったりもする。

日曜日、東京の向こうの端で数千冊の量が私を待っている。
自慢じゃないが元々知恵がない上にこのごろじゃ体力にも自信がないから、
効率よくとはとても行くまい。
行くまいけれど行かねばならぬのだ。
[PR]

by shanshando | 2008-09-12 13:11 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 09日

生きてるだけで大儲け!

長時間の店番もあと一時間。
火曜と金曜の夜は仕事の流れ次第で私が興居島屋に入って、
本来興居島屋の堀内さんに上々堂に入ってもらったりするのだが、
いずれにしても店番だけで11時間、その前の買取からだと、15,6
時間の労働になるので、夜10時過ぎると意識がモーローとしていたりする。

専用のマグカップにワインを入れて、景気づけでもしない事にはとてももたない。
そう言えば、ブリュッセルの古本屋の親父も大ぶりのジョッキでビール片手に
働いていたけど、私もなんだかあんなふうになってきたなぁ。
もっともあっちは真昼間からやっていたけど…。

ワインのせいだか、疲れのせいだかわからないが、とにかくモーローとした眼で
表を眺めると、知り合いのイラストレーターKくんが立っている。
やぁ!いらっしゃい!…そう残念ながら今夜は僕なんです。
そっちは「飲み」ですか?お連れさんは?ほうほうポーズ人形ね。
それはまた珍しいものをお集めで……
それと古道具屋さん。はぁはぁ、

なんだか三人とも結構メーターすでに上がっていそう。
店番が堀内さんや赤松さん、澄子氏でないことに関してあからさまに残念そうに
しながらも、ビールを差し入れ。どもども。

話していると古道具屋氏は相当古本業界にお詳しいらしい。
最近また耳があまりよく聞こえないので、どうしても聞き取りにくいが、なんだか
同業の名前もポンポン出て、私どもの相棒に関しても私以上に詳しいらしい。
ナニ?興居島屋が古本業界で成功している?
誰にそんなこと聞いたの?成功してる店の親父がこんな時間に店で隠れて安
ワイン飲んでいたりすると思う?

世の中ワーキングプアだのなんだの言ってるから、店子自営業で死なずに14年
続けているというだけで、大いに成功者ということになるらしい。
まぁね、「生きてるだけで大儲け!」なんて考え方もあるようだから、死なずにいる
だけで、喜ぶべきなのかもね。
でもさぁ、まだまだお若そうな古道具屋さん、たぶんちゃんとご存知でしょうけれど、
稼ぐ人はほんとにしっかり稼いでいて、
「いやー、最近景気悪いねぇー」なんて言ってる裏腹で、しっかりがっぽり稼いでいる
ものなのさ。

うちみたいに水面下で必死で水掻き動かして、やっと生きてる店は成功しているなんて
言わない。
この夏は何度かゼンマイが切れて、水掻きとまっちゃいそうでしたよ。
いやぁー生きてるだけで大儲け!
[PR]

by shanshando | 2008-09-09 14:20 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 06日

フイチンさん

西荻窪の駅を降りて、ボーッと歩いているとバス停の脇の小さな小さな告知板が
眼に飛び込んだ。
杉並区が既存の箱物を使ってやっているアニメーションミュージアムの告知だ。
アニメに特別の関心はないし、その場所自体も一度行ってみて、なんだかイマイチ
なコンセプトだなと感じたので、普通ならまぁ見逃すところだが、眼に飛び込んだのは
そこに「フイチンさん」の名前があったからだ。

「フイチンさん」は今年三月に亡くなった上田とし子さんが、昭和32年から37年まで
「少女クラブ」に連載していた漫画で、舞台は満州時代のハルピン。
年代的に言って勿論私はリアルタイムではその漫画を読んでいないが、数年前に
やった彷書月刊の特集でその名と作品を知った。

ハルピンや大連などの満州の町は日露戦争以前にロシア人が巴里を模して造った
街で、そこに中国文化が入り混じって、独特のエキゾチシズムを醸し出していたという
ことは、さまざまな本でも読むし、先日も買取で伺った満州出身のお客様にも話で聞いた。
歴史的ないきさつ、政治上の問題を抜いて考えても興味深い街々だ。

あにまる屋さんというところから出されたアニメ版「フィチンさん」にはそんなハルピン
の雰囲気が叙情たっぷりに描かれていて、偶々それを観たことのある私は、是非とも
その原画が観たくなった。杉浦日向子にとっての江戸じゃないけど、今はもはや幻と
化してしまった街は、やはり魅力的だ。

今回の展示は上田さんの追悼展ということで、同年輩から後輩になる数多くの漫画家
さんたち(ビッグネームばかり!)が寄せた色紙がいっぱい飾られ、アニメ製作のために
上田さん自身が思い出しながら描かれた当時のリアルな満州の情景画も面白く、
中央に展示された極状態の良い上田さんの著書も含めて、これ全部買い取ったら……
などといじましい皮算用をして終い勝ちな古本屋のサガを憎みながらも、十分に面白い
展示でありました。

しかし残念ながらこの展示、なんと明日(9月7日)まで、もっと早く教えんかい!って、
何しろ同年輩の長谷川町子などから比べると、知名度がそんなに高くない上田さんを
侮ってか、アニメーションミュージアムの告知はHPでの扱いも含めて不当に消極的、
会場での展示場所もなんだか無理無理隅っこに押しやられている感じ。
これが三鷹の市民ギャラリーだったら、もっと力を入れてやってくれるだろうに、と思い
ながら、福祉行政では軍配のあがる杉並区も文化行政では三鷹市に完敗だな!と思
わざるを得ないのであります。
[PR]

by shanshando | 2008-09-06 13:39 | ■原チャリ仕入れ旅■
2008年 09月 02日

外後架

今朝、買取に出ていて牟礼のあたりで外後架のある家を見た。
田舎じゃまだ随分あるだろうし、それこそ夏休みにお父さんやお母さんの
実家に遊びに行って、こわごわ使った子供たちも居るかもしれないけれど、
都会のマンション暮らししか知らない子供たちには想像もつくまい。
私自身こんな近くで見られるとは思わなかった。
そもそも外後架って何?という人も少なくないのではないか。

思いついて、店についてからグーグルで検索してみたら、トップに何故か
「井伏鱒二」という項目が出た。
「荻窪風土記」冒頭あたりの文章の抜書きに内後架、外後架という言葉が
出てくるのだ。
「荻窪風土記」の冒頭あたりとは、昭和の初め頃、井伏鱒二が荻窪に借家を
探すくだりで、借家の持ち主の百姓の親父は、家賃なんぞいくらでもいいけど、
下肥は全部他所へやらないで、ウチにくれと言う。
つまり家賃なんかより、店子がひりだす排泄物を目的に家を貸そうというのだ。

ほんの80年あまり昔には、うんこ以下の価値しかなかった荻窪あたりの家賃は
今や目が飛び出るほど高く、外後架はもうそのあたりのどこにもおそらくない。
杉並区全域を詳しく探せば一軒くらい見つかるだろうか?
隣り合う武蔵野市や練馬区でも難しいだろう、ところが三鷹にはちゃんとある。
外後架があるのが何が偉い?と聞かれれば「いやべつに」と答えざるを得ないけど、
外後架の家の傍には果樹園があったり、またその無人店があったり、微妙に田舎
エッセンスが混じっている三鷹が私は好きだ。

井伏鱒二と同じ明治三十一年生まれの吉田一穂は後半生をこの牟礼の里で送った。
当時の文士は一般に今の作家さんより貧乏で、武蔵野あたりに居住するのは風雅
野趣を求めてというより、むしろ経済的な理由だったはずで、そのなかでもすでに省線
が通っていた荻窪に住めた井伏と、更にど田舎暮らしの一穂では大きく収入に差が
あったのだろう。

店も折角三鷹にあるのだから、三鷹に住めれば住みたいのは山々だけど、行政サービス
に差がありすぎて、今のところ杉並を離れがたい私なのでした。
[PR]

by shanshando | 2008-09-02 13:39 | ■原チャリ仕入れ旅■