2009年 09月 23日
全集の端本というのは、売ろうと思って持ち込むと、 それが誰のどの全集の何巻かにもよるけど、概ねどの古本屋 にもいい顔はされない。 べつに古本屋がいい顔をしたって、つまらない顔をしたって、 そんなことは気にするほどのことでもないけれど、重たいもの をエッチラホッチラ持ち込んで、これは駄目ですなんて言われると あまりいい気分はしない。……しませんよね? 勿論古本屋にしてみりゃ、生活がかかっているんだから、そう お人よしにもなっていられない。 所詮売っていただけなければ成り立たない商売なのだから、 わざわざお持ち戴いたものをお返ししなければならないのは断腸の 思いなのだけど………イヤほんとうに。 私がなるだけ出張で伺うようにしているのは、その辺のことを考えて であるが、まぁそれは何度も言ってるのでいいとして、樗牛全集。 百鬼園先生の「阿房列車」の冒頭の章にわずか2銭の旅費に窮して 持っていた樗牛全集の7巻を売る話が出てくる。 同じ漱石門下の龍之介(わっ呼び捨て!!)の「樗牛の事」という文に も、中学生の時樗牛全集の5巻までを購入したが、うち3冊は今見当 たらないから、「あとはおおかた売り飛ばすか、借しなくすかしてしま ったのであろう」という、戦前の古本屋は全集の端本にちゃんと値をつけた わけだ。 それも旅費の足しになる程度の値段は…。 今、はっきり言って復刻も出ている樗牛全集の端本を持ち込まれても 私は多分買わない。 いやそれは勿論私の不勉強の所以であるかもしれないけど、少なくとも 当店では商売になる可能性はほとんどないから、それだけじゃとても 買えない。百鬼園先生ならぬどなたかが、旅費の足しになければ困る からと言われても、やっぱり買わない。 買わない、買えないことを自慢げに言うのではなく、むしろそうやって せっかくの書物を粗末にしなければいけないこんな時代のこんな国に 生きていることになんとなく疑問を覚える。 樗牛全集が出版されたのは未だ百年も経たない大正末から昭和初期に かけてで、西洋流のアンティークの概念からは外れるわけで、こんな 短時日でこの書物の価値が無くなってしまうなんて、樗牛は勿論、百鬼園 龍之介も想像だにしなかっただろう。 無駄な出版が多すぎるのだ。 文化というのは無駄の集積という考え方もあるかもしれないけど、毎日 何冊ものツブシの処理をしなければならない身にしてみれば、とてもこの 状態を百花繚乱とは言い難い。
by shanshando
| 2009-09-23 15:56
| ■原チャリ仕入れ旅■
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