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上々堂(shanshando)三鷹

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2005年 07月 06日

淫夢を見る椅子

2005年7月6日 水曜日雨の曇りまた雨?

雨が続いて、閑なので物語を作ってみました。
なるだけ短く書くので、貴方がもし閑だったら
読んでみてください。

 ある国で一人の老将軍が退役した。
 国王は彼の永年の忠節に対して多額の
 退職金を支払った。
 
 しかし軍隊一筋に生きてきた彼は家族も
 なく、自分の人生を愉しむすべも知らなかった。
 自分のために何かをした事が今まで一度も
 なかったのだ。

 彼には一つだけ望みがあった。
 それは淫夢を見ることだった。
 若い頃から謹厳実直な彼は、他の兵士が
 それに苦しめられたり、あるいは愉しんだり
 している事が理解できなかった。
 今、年老いて自由の身となった彼の唯一の
 望みがそれだった。

 永い間の腹心であり友人である大佐は云った。
 「それならば、国の北の町に住む椅子職人を
 訪ねられれば良いでしょう。彼の椅子は座る
 人に望み通りの夢を見させるそうです。」

 老将軍は北の町の椅子職人を訪ねた。
 職人は云った。 
「『淫夢をみる椅子』を作るには絶対必要な材料が
 あります。それは、完全に穢れを知らない信心深い乙女
 によって打ち殺された牡牛の骨と皮と血です。その
 骨を撓め、削り。皮を貼り。血を塗るのです。それ
 以外に淫夢を見る椅子を作る手立てはありません。」

 彼はさっそく修道院にむかった。
 「どうか私のために牡牛を1頭打ち殺しては貰えぬか?」
 修道女たちは首を振った。
 「私たちは、神に捧げる目的以外では牛をほうふる
  事はできません。」

 彼は国中の信仰心が篤いとされる乙女を訪ねたが、
 誰も皆同じ答えだった。

 国の南の町に一人の屠殺人とその娘が住んでいた。
 屠殺人は強欲で有名な男だが、娘は信心深く親孝行もの
 だという評判を聞いて、老将軍はこの屠殺人を訪ねた。

 「どうかお前の娘に牛を打ち殺させては貰えぬか?」
 積み上げられた、金の山を見て屠殺人は、
 「旦那この金を倍にしてください。そうすりゃ牛なんか
 殺して妙な夢など見なくても、娘そのものをお好きに
 させますぜ。」
 将軍はこみ上げる怒りと吐き気をおさえながら屠殺人
 に云った。
 「金は倍だしてやる。ただし望みは牛を打ち殺す事で
 娘ではない。」

 次の朝、娘は父親の命をうけ、屠殺場に立った。
 彼女は酔って腕を挫いた父のかわりに牛を殺すのだ
 と信じていた。そんなことはこれまでにもあったのだ。
 ただ、この日は見知らぬ老人がそばで見ていた。
 そんな事は初めてだったが娘は気にせず、まずいつも
 の様にはっきりと大きな声で神に祈りを捧げ、続いて
 拘束された牡牛の脳天に鉄斧を振りおろした。
 牛の脳髄から体液が噴出し、娘の白い無垢な肌を染めた

 その瞬間、将軍は初めて女を美しいと感じた。
 いや女のみならず、今までの彼は何かを美しいと感じる
 事はなかったのだから、このとき彼は生まれて初めて
 美しいものにまみえた事になる。
  
 こうして、老将軍は『淫夢を見る椅子』を手に入れた。
 都のはずれの彼の屋敷を訪ねたものは、昼日中から
 庭先でその椅子に腰掛け、呆けたように居眠る彼を見た。
 そして中には彼を軽蔑し憐れむ者もいたが、将軍
 は意に介さなかった。
 彼は分かち合う喜びなどない事を知ったのだ。
 

by shanshando | 2005-07-06 23:12 | ■原チャリ仕入れ旅■


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