人気ブログランキング | 話題のタグを見る

上々堂(shanshando)三鷹

shanshando.exblog.jp
ブログトップ
2005年 08月 10日

古本屋の掃苔帖 第二十七回 大下宇陀児

オオシタ ウダルである。
オオシタ ウダジではない。
古本屋のくせにずっと間違ったまま憶えていたりする人
が居る。気をつけるように。
………私です。すみません。

我ながら困ったものだが、困ったことが実はもうひとつある。
昨日から兆候がでていたのだが、テーマになる本人より、
脇に興味が走ってしまうのである。
昨日の矢田茂も気になってしょうがない。
市村俊幸を調べれば調べるほど、矢田について知りたくなる。
そうして、ほんのわずかでもいいから矢田の情報がのっている
印刷物を見つけると嬉々として買い込んでしまう。集めて調べて
どうしようというのではない、ただどんどん自分だけの妄想世界
に溺れていく快感、これが古本病だ。……あんまり商売人がかか
っていい病気じゃない。酒屋のオヤジがアル中になるようなもんだ。
話が逸れまくっているが、実はきょうは大下宇陀児を調べていて、
山名文夫にはまってしまった。資生堂の花椿のマークをデザイン
した人だ。「デザインの詩人」と呼ばれている。…やばい山名の話
になっちゃう。

大下の本の多くを山名が装丁している。おどろおどろしかったり、
耽美的だったり、彼大下が売れっ子作家だった時代の読者の
ドキドキ ワクワクが伝わってくる。探偵小説というのはいかにも
時代のアダ花という感じだが、アダ花だから素敵なんだねえ。
現在、このアダ花ドキドキ感をあたえてくれる作家は少なくとも
私には京極夏彦だけだ。
某女流作家、ここ数年少し話題の新人だった彼女(名前をいえば
皆さんまずご存知の彼女だが)を、じつは少女の頃から知ってい
るが、彼女は京極の新刊が出るたびに一気に読み通し、そして
一冊一冊新聞紙に包んで保管していた。宝物なのである。出版
に携わる人たちよ、肝に命ずべし、あなたが今携わっている仕事
によって次代を切り開く優れた才能が触発されているかもしれな
いのだ。
うーん、話がずれる。
なにしろ、大下宇陀児は戦後の一時期、乱歩と並ぶ流行作家だっ
た。軽くてもろくて安っぽい仙花紙の本を、それこそ待ちわび、ドキ
ドキワクワク読んだのだ。
不朽のビッグネームになった乱歩に比べ、大下宇陀児は忘れられた
存在となった。いたしかたない、探偵小説、あるいは推理小説は進化
する文芸なのだ。京極もやがて過去の人となるだろう。
誰も乱歩にはなれない。乱歩は別格官幣社なのだ。

大下宇陀児は探偵作家クラブの二代目会長になり、NHKラジオの
「二十の扉」のレギュラー出演者でもあったが、現在彼の著作を新刊
書店で見つけることは容易ではない。まさに古本屋の守備範囲の
作家なのだ。

1966年8月11日心筋梗塞のため死亡、
享年66歳。

彼の死後、遺作である「ニッポン遺跡」が刊行、SF小説である。
彼は星新一を見出した人でもある。


by shanshando | 2005-08-10 23:29 | ■古本屋の掃苔帖


<< 古本屋の掃苔帖 第二十八回 西條八十      古本屋の掃苔帖 第二十六回 市村俊幸 >>