2005年 09月 10日
源氏鶏太という作家がいた。 「いた」なんてもんじゃない、兎に角、新刊、古本を とわず、本屋で源氏鶏太の本がない店を探すほうが難 しいという時代があった程だ。 源氏鶏太を知らない若い人に説明するのに、 「ようするに昔の赤川次郎だよ。」といった人がいたが、 云いえて妙だと思う。 はたして生涯に何冊の本を出したのか、高杉方宏という 人の書いた「資料・源氏鶏太」をみると詳しいと思うが 残念ながら今手元にない。 『三等重役』や『七人の孫』などテレビ・映画化された 作品も多い、超ベストセラー作家である。 この作家、日本経済新聞社刊の「私の履歴書」によると、 昭和5年に入社以来、昭和22年「オール読物」に『たば こ娘』を発表文壇デビューしてからも、昭和31年まで住 友関連の会社員であった。 「私の履歴書」に興味深い回想がある。 彼が入社した昭和5年は世界的な大不況の真っ最中で、今 で云うリストラの嵐が吹き荒れていた。 ある日突然、給仕が部長からの呼び出しを告げにくる、それ は馘首宣言を意味していた。ある日、彼の属していた用度係 の係長にもそれが来た。20分くらいで悄然と戻ってきて 「これですねん」手首を切る真似をしてみせる。 その日の内に支払われた退職慰労金をすべて、同じ建物の一 階にある住友銀行に持ち込んだ係長は全部1円玉に換えて、自分 の机に積み上げたという。 初任給が国立大75円、私立65円、高商55円の時代に用度係長 の退職慰労金はいかほどだったのだろう? なんだか、気の毒だけど不思議な諧謔味のある話だ。 その後、戦争時代、戦後の財閥解体などを乗り越えて、彼は自ら も1サラリーマンとして、サラリーマンのいろいろな姿を見つめ てきて、その中からアレだけの数のユーモア小説を生み出したの だろう。 今、また源氏鶏太に着目する古書ファンが増えている。 源氏鶏太は1985年9月12日他界している、享年73歳 ところがですね、死因が判らない。色々調べたんだけど、何処にも 書いてない。南洋一郎以来である。近々、再度調べ直してこの点 は追加しますが、今日のところはこれにて。
by shanshando
| 2005-09-10 23:15
| ■古本屋の掃苔帖
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