2005年 10月 25日
喜劇役者には日常陰湿な人が多いと聞くが、伴淳ほど その陰険さを言われる人も少ないだろう。 小林信彦の「おかしな男渥美清」に出てくる伴淳の後輩 いびりに関する記述は、この役者の残された映像作品を 見る時にイメージの上で差し障りがあるほどにリアルに 陰湿である。ひょっとすると、小林信彦自身が伴淳に何か 恨みがあるんじゃないかと思うほどに。 もしかすると、誰か他の著者による本を読めば小林の本と は正反対の伴淳像が現れるのではないかと思い、田山力哉 「伴淳三郎 道化の涙」を読んだ。 結果を言うとこの本では著者はなるだけ好意的に書こうと しているにも関わらず、やはり伴淳は相当嫌な奴である。 本人が嫌な奴であるだけでなく、彼の居る周囲の雰囲気ま で陰湿で寒々しているという感じだ。 自分より強いやつには媚びへつらい、弱いやつにはじくじ くと虐めをやる。まさに典型的な日本人という感じである。 内田吐夢はそんな彼を「飢餓海峡」の撮影で虐めるだけ虐 めて、アジャパー氏では見えなかった彼の本然の暗さを引 き出す事に成功している。 しかし、喜劇役者の暗さを引き出すことは、映画にとっては プラスかもしれないが、役者本人にとってはどんなものだろう? 日本の喜劇役者は歳を取るとみんな森繁になりたがる。 森繁という人は持っている質が根っから明るいから、どんな シリアスな芝居をやっても観てるほうは救われる。しかし対象 するように伴淳は根っから暗い役者なのだ。 前出の田山力哉の本で伴淳の生涯を見る時、私たちは同時に 昭和の興行界の闇を見ることになる、単純にヤクザが絡むから、 暴力や理不尽がまかり通るから闇だと言うのではない。 ヤクザや暴力はそれ自体別に暗くはないが、伴淳のようにそれにおも ねる人間が関わった時一気に暗くなるのだ。 そうして、私は彼の生涯があまりにジメジメ暗いものだから、かえ って未見の彼の喜劇映画を観たくなった。喜劇役者は屈折した素顔 を持っている方が大抵面白いから。今のテレビ芸人のように地ばかり 見せているようなのは全然興味をもてない。 己の屈折した性格のゆえに、芸能人としての成功とは裏腹に私生活 では生涯不遇で孤独だった伴淳三郎は昭和56年の明日10月26日 に死亡した。開腹してみると酒を飲まない彼の肝臓が疲労と心労の ためひどい状態になっていた。最後を看取ったのは嘗て世話になり ながら手酷い別れ方をした恋人清川虹子だった。享年73歳
by shanshando
| 2005-10-25 21:39
| ■古本屋の掃苔帖
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