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上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 01月 28日

古本屋の掃苔帖 第百六十六回  八代目林家正蔵

日本の爺ィはいつから去勢されたのだろう?
右を向いても左を見ても猛々しいのは婆ァばかりである。
もう、30数年前に死んだ私の母方の爺ィなんぞは、見事な
薬缶頭を沸き立たせて、年がら年中周囲に小言を巻き散ら
せていたが、今はあんなよく沸く薬缶頭は見る事が無い。

小言というのは「叱言」という字をあてる人もいるくらいで、
愚痴や嘆息は、叱言とは云えない。介護保険などというのも
それは必要には違いなかろうが、社会的なシステムにしてし
まう事でますます年寄り、特に爺ィを去勢することになりは
しないかと心配である。婆ァはまぁ大丈夫だろう。男は根が
社会的な生き物として出来ている分去勢されやすい。
私は闘う爺ィになるぞっ!

さて、麻生芳伸編「林家正蔵随談」を読むと、トンガリの異名
に羞じぬ小言のオンパレードである。マジメに読んでいると、
しまいに「ええい煩い爺ィだ!」とこちらの額にも青筋がたっ
てしまう。
しかし、昔気質の芸人らしい律儀さと、使われている「昔言葉」
のボキャブラリーからは、生身の去勢前の爺ィにひさしぶりに
会ったような気分が味わえ、まぁ面白い。
例えば言葉でいえば、二十歳を「はたち」と読むのは誰でも知
っているが、十九歳を「つづ」と読むなんて、私はこの本を読む
まで知らなかった。

所詮、聞きかじり読みかじりの噺家の逸話を知ったかぶって書く
のは野暮だくらいの事は知っているが、この彦六になって死んだ
八代正蔵に関して、どうしても好きな逸話があるので、お目汚し
は覚悟のうえで書いてみたい。

戦後になって大学卒の落語家が増えて、噺家同士の会話も高尚に
なったと見えて、ある時若手噺家同士がよってテレビの科学番組
(たぶん「ウルトラアイ」かなんかじゃないかと思うが)を見な
がら「何故ものは腐敗するか?」ということについて論議してい
た。(高尚ですなー)そこへ入ってきた林家に
「師匠はどう思われます?」
「なぁにがぁ?」
「いえね、ものはなんで腐るんだろうって?」
「バァカァヤァロオウ!早ぁく食わねぇからだ!」

八代目林家正蔵は1981年、一代限りの約束で借りた名跡を七代の
子息である三平の遺族に返し、初代彦六となって翌82年の明日、
1月29日88歳で他界した。

by shanshando | 2006-01-28 21:33 | ■古本屋の掃苔帖


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