上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 03月 08日

古本屋の掃苔帖 第百九十九回 ロバート・メイプルソープ

「猥褻とは、いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ
普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道徳的概念
に反することを意味するものであり…」

(最高裁判所昭和26年5月10日第一小法廷判決・刑集5巻3
号9997頁)
なかなか刺戟的で素敵な文章である。
とくに「普通人の正常な性的羞恥心を害し」と云うところが
グッとくる。「普通人」という言葉は、私に言わせれば明ら
かにサディスティックな差別用語だ。

想像してみて欲しい。異性同性にかかわらず誰かとSEXをした
直後に、相手から「アナタって本当に『普通人』ね」と言われ
たとしよう。アナタが本当に「普通人」だった場合、その一言
がトラウマになり一生性的不能になりかねない。寸鉄人を刺す
というやつだ。
しかし、もしアナタがマゾ趣味の持ち主だった場合これは更に
性的興奮を高める魔法の呪文になる。
つまり、この(時期的にみてチャタレイ裁判だろうか?)判例
文そのものが、どうかすると普通人の性的羞恥心を害しかねな
い可能性を持ち、同時に変態達に性的興奮を与える(いたずら
に)可能性を持っているのだ。

誰しもが、性に幻想の介入を望んでいる。
別にSM趣味などなくても、はじめて口説き落とした相手と性交
を遂げるその瞬間まで、相手を如何なるアイドルにも勝る存在と
思い込んでいたという経験は、誰しもがあることであろう。

さて、冒頭の判例は1992年に株式会社エルデの社長土屋勝氏が
アメリカの美術館で購入したメイプルソープの回顧展のカタログ
を日本に持ち帰った際、猥褻物として税関に没収された事件に関
する東京地裁の判決文から引用した。
この裁判はさまざまな人の支援を受け、最高裁に上告するところ
まで闘ったようだが、結局上告棄却、原告敗訴が決定している。

早い話が、日本国内の美術館における公開もすでに行われていて、
且つ裁判所として、問題となったメイプルソープの諸作品が世界
的に芸術性を認知されている事を認めた上で、尚陰茎や尻の穴や
睾丸が大写しにされている写真は猥褻物であると、つまり判例を再
度引用すると、陰茎や尻の穴や睾丸と云う物は、それを観る事で
「普通人」が性的羞恥心をおぼえたり、「いたずらに」興奮したり
するものだよ。と最高裁が仰ってるわけである。

快哉ではないか!私は今までそうした物に性的興奮をおぼえるのは、
ゲイだとか、サドだとかマゾだとかの性的マイノリティーの人だけ
かと思っていたが、
なにしろ最高裁判所がその人たちは普通だよと
お墨付きをくれたわけだ。パチパチパチ

しかし最高裁の叡慮は置いとくとして、ゲイの人はともかくサドや
マゾの人にとってはむしろ迷惑なお墨付きだったのでないか?
ああいった物は、やっぱりある程度世間から隠れてやるところに味が
あるのであって、市民権が与えられて区民センターとか市民センター
みたいな処でもそういう趣味の人がおおっぴらにプレイできるように
なったりすると、あまり彼等は楽しくないような気がする。

ロバート・メイプルソープ自身がどこまで真性の変態であったかにつ
いては、大いに疑問のあるところである。
没収されたカタログのうちで、特に問題になった作品のひとつに尻の
穴に鞭の柄の部分を突っ込んでいる写真があるが、これなどはまっと
うなマゾに言わせるとやはり外道の感があるのではないか?メイプル
ソープと云う人は、自分を売り込む事にかけては俗物的な野心の旺盛
な人だったと聞くから、これなどもそういった野心の現れなのかもし
れない。それともやはり、こういう作品を公開することで世界中から
こう罵られる事を期待して興奮したのだろうか?
「この薄汚いおかま野郎!」

この、日本でのドタバタ騒ぎを遡る事3年、1989年の明日3月9日
ロバート・メイプルソープはエイズによる病状が悪化して他界してい
る。
享年42歳
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by shanshando | 2006-03-08 21:37 | ■古本屋の掃苔帖


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