2006年 05月 06日
このブログをやっているお陰で、うかうかとすると一生読まずじまいに なったかもしれない作家の本を半ば義務として読んで、結果大いに 得をした気分になることがよくあるが、しみじみ今日の私は、野呂邦暢 気分なのだ。 二つの店ともに残念ながら、野呂邦暢の本の在庫がなかったので、 今朝図書館から文藝春秋版の「野呂邦暢作品集」を借りてきて、いく つかの短編や随筆を読んでみた。 この本は、前半に九つの作品を掲載、後半は「小さな町にて」の抄録 をはじめとした随筆になっている。 このブログを読んでいただいている方ならご存知と思うが、この「小さ な町にて」の中に、石神井書林さんの本や「ナンダロウアヤシゲな日 々」などに書かれている大森の古本屋「山王書房」の関口さんについ て書かれた随筆が入っている。 話はこうだ。昭和30年代の初め、山王書房にいつも長時間ねばった 末に均一本をしかも値切って買って行く、大いに迷惑な客がいて、あ る日店主の関口さんが怒鳴りつけてしまうのだが、この客がある日当 時としては高価な1500円の「ブールデール彫刻写真集」を帳場に持 って来、帰郷することになったと言う。 気に入った客には、いつも値引きをしていた関口さんは黙って500円 餞別がわりに値引きをした。野呂邦暢の随筆ではここまでだが、関口 さんの著書「昔日の客」には続きがある。 その日から、16、7年経たある日山王書房に電話がはいる。それは 昔日の客、その年の芥川賞を受賞した野呂邦暢だった。 昭和30年代初頭の1500円は今の2万円くらいになろうか?その帰郷 の時はいくばくかの退職金を得て少しばかり懐が暖かかったようだが、 帰郷後自衛隊に入隊一年で除隊後、文学を志す生活の中で常にその 生活は貧しかったようだ。年譜によると芥川賞受賞の翌年には土地家 屋を購入しており(結局住んでいないのだが)、経済状態も良くなったと 見えるが、それからわずか5年後の昭和61年の明日、5月7日心筋梗 塞のため他界している。 享年42歳
by shanshando
| 2006-05-06 16:10
| ■古本屋の掃苔帖
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