2006年 06月 24日
昔々の国鉄時代、貧乏青年たちにとって東海道線を深夜走る「銀河」は ありがたい存在だった。 特急料金がいらなくて、例えば京都から東京間なら確か深夜9時代に出 発して米原から大垣まで乗り継ぎ、深夜の大垣駅で待つ事20数分、大 垣始発の「銀河」に運良く席が確保できれば、あとは多少の窮屈を忍ぶだ けで、朝には東京駅に着いた。 京都で学生時代を過ごした私は何度となくこの列車を利用し、夜の闇の底 に覆われた車窓のむこうに点在する見知らぬ人の灯火に旅の情緒をくすぐ られたものだ。 行きの銀河で乗り合わせた女学生と帰りの銀河でまた偶然乗合わし、これ ぞ天の配剤とばかりに、調子にのってナンパして見事ふられたこともあった っけ。 JRになった今も「銀河」はあるが、寝台車両のみでお値段はあまり貧乏青 年向きではない。 今は、みんな「青春18キップ」などを利用して、昼間乗り継いで旅するそう だが、やはり私は若い不安定な情緒をあずけたあの「夜行急行銀河」が恋 しい。 昭和31年6月25日、この「銀河」から転落死した宮城道雄を偲び、その2 周忌を前に事故のあった刈谷駅を訪れた内田百閒は、当時の刈谷駅長に 駅内で宮城の曲を放送することを提案し、更に国鉄本社に掛け合い実現さ せた。現在はどの駅も発着の合図代わりにメロディーを流すようになったが、 これはその先駆けであったといえるかもしれない。 この間のいきさつは内田百閒「東海道刈谷駅」で読むことが出来る。 古本屋をやっていると妙な因縁めいた出来事に遭うことがしばしばだが、昨日 未だ今日の掃苔帖のテーマの下調べもしない午前中、私は旧国鉄にお勤め だった方のご遺族から百閒の「阿呆列車」等でおなじみのヒマラヤ山系君こと 平山三郎氏あての献呈本を買わせていただき、興居島屋を開けに西荻に来た ところでやはり以前本を御割愛いただいた「摩阿陀会」の世話人K氏のご遺族 にお会いし、これは近々百閒関係のなにかと縁があるかもと思っていたところ だったのだ。まぁこじ付けかもしれませんが。 名曲「春の海」の作曲者である宮城道雄は、幼い頃失明しており、百閒によれば ごく勘が悪い盲人であったそうだが、その一期となった事故も昇降口を便所と間 違ったのではないかという説があるそうだが、いくらなんでも信じがたい話である。 信じがたいとなれば自殺?それもなんだか信じがたい。 明日6月25日は宮城道雄の50年目の命日にあたる。 享年62歳
by shanshando
| 2006-06-24 14:59
| ■古本屋の掃苔帖
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