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上々堂(shanshando)三鷹

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2006年 09月 26日

古本屋の掃苔帖 第三百十二回 大友柳太朗

伊丹十三監督の「タンポポ」で、東海林さだお流のラーメンを食べる
作法を解説していたお爺さんといえば、若い人にはわかりが良いかも
しれない。
嘗ての時代劇映画のスターであり、元をただせば新国劇の辰巳柳太
郎の弟子で、従って緒方拳とは相弟子ということになる。年齢からいっ
て大友が先輩になるのだろう。

オトガイが張って、鼻が立派で、間違っても女形にはなれない顔だ。
容貌という言葉がぴったりするこういう顔は、最近めっきり見なくなっ
た。
その顔で、ショージくんの作法を大真面目にやるところが面白かった。
思い出すとラーメンが食べたくなる。

先日なんの本だったか忘れたが、黒澤明の「七人の侍」を観たある
映画監督が、村人たちの顔を見て、「昔の映画監督はよかった。これ
だけの顔は今集められない」と云ったということを読んだが、確かに
いわゆる多彩な民衆の顔というのも得がたいだろうが、大友柳太朗の
ような「ご立派顔」も今では得がたいだろう。

俗に鼻の大きさは、男性器の大きさに比例すると云い。同時にそれは
精神の剛健さもイメージさせるが、立派な容貌に似合わず繊細な神経
の持ち主であったと見え、晩年、セリフの覚えが悪くなったことで、老人
性痴呆になったのではないかと思い込み、ノイローゼになったという。
今際のきわになって、「仕事をいれてくれ」と事務所に言ったというアラ
カンと言い、役者は死ぬまで役者であることから離れられないものらし
い。

1985年の明日9月27日、怪傑黒頭巾大友柳太朗は、自宅のあるマ
ンションの屋上から飛び降り、自死した。
前日の26日には、「タンポポ」の伊丹十三と、やはり遺作になったテレビ
ドラマの監督に電話して、自分の出番がすべて撮り終えた事を確認して
いるところが律儀さを感じさせる。いや、もしそのどちらかが「もう一度
撮り直しがでるかもしれません」と言っていたら…。
享年73歳

by shanshando | 2006-09-26 16:45 | ■古本屋の掃苔帖


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