2006年 10月 21日
暑からず、寒からずという日和で、興居島屋の番台に座っていると 眠気がさしてくる。昨日来た。南陀楼氏が「あれ、こっちもやってる んだ?」と言っていたが、店主が昼間っから店に座っているという ことが、古本屋として健全な状態であるかどうかは大いに疑問だけ ど、一応私の店なので、私が座っていて不思議はない。 しかし眠い。 古本屋に長命な人が多いのは、店で居眠りするからじゃないかと 思うのだけど、これは従業員の皆さんには聞かせられない話。 眠い理由のひとつに音の問題がある。 最近、昼間は音楽を意識してかけていないのだ。 上々堂は、周りの音があまり入って来ない店だけど。興居島屋は 裏路地のせいか様々な音が入ってくる。 露天の移動八百屋「八百星」の売り声、通りを行く人の話し声、お隣 の酒房「高井」では、仕込みの間ラジオをかけていて、今日は懐メロ 番組。壁一枚隔てて聞こえてくる懐メロが、環境音とミックスされ、い かにも町場の古本屋らしくて、下手な音楽より私は好きだ。心が和ん で、それで眠くなっちゃうんだけど。 一通り開店儀式を済ませて、お弁当を食べて、珈琲を飲みながら今日 の掃苔帖の対象になるはずだった人の資料を読み始めるが、集中でき ない。眠気のせいだ。本に頭を落としたままウトウト。うーんいかん。 珈琲をお替りして眠気ざまし、聞くともなしに耳の底に張り付いていたお 隣のラジオが「別れの一本杉」をやっている。 うーん春日の八ちゃんはいいねぇ。わざわざ自分ちでかけようとは思わ ないけれど、床屋とか焼き鳥屋などで聞こえてくるとしみじみ浸っちゃう。 「コチ亀」の両さんもファンだっけ。 そうだ、やっぱり八ちゃんにしよう。明日が命日だし。 春日八郎の本格的な歌手活動は戦後、昭和22年からである。 27年に「赤いランプの終列車」が大ヒット。「お富さん」や「別れの一本杉」 などのヒットがある。特にヒットしたのは「お富さん」ではないか。 「粋な黒塀、見越しの松に、あだな姿の洗い髪。」とか、「死んだはずだぜ お富さん、生きていたとはお釈迦さまでも知らぬ仏がお富さん」とか、 意味も判らないままに子供たちも歌っていた。 歌の上手い下手は私にはわからないが、藤山一郎に憧れて歌手になった というだけあって、かーんと響きのいい声が、貧しかった時代の気分を楽天 的にしてくれていたのかもしれない。 テレビの歌謡番組をあまり観ることがなくなって、随分ご無沙汰と思ってい たら、1991年の明日、10月22日肝硬変で亡くなっていた。 享年63歳。
by shanshando
| 2006-10-21 15:33
| ■古本屋の掃苔帖
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