上々堂(shanshando)三鷹

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2007年 01月 30日

ちのすけ 前編

古本屋をやっていると、時に珍客の訪問を受ける事がある。

こちらが知らずに応対していたら後で、実は有名な方だったと知って
はしゃいだり、という事もあるが、その程度は珍客のうちには入れない。
有名人だって文盲でもないかぎり本を読むだろうから、珍でもなければ
奇でもない。
私が云う珍客とは、せめても宇宙人クラスのことでなければならない。

8年前の8月の中頃のある夜のことである。
昼のうち、例によって仕入れに奔走し、夜はそのまま店に出ていた。
この店というのは、当然上々堂ではなく興居島屋のことである。上々堂
は未だ無い。
夕食の時、ビールを一本やって気持ちよくなり、昼間の疲れもあって帳
場でウトウトしながら座っていた私の眼前に突如、バタバタと小さな生き
物が舞い降りた。
どうやらパニック状態にあるらしく、猛烈な勢いでバタつくので、果たして
何物なのかわからない。暫く帳場の文机の上でバタついた後、転げるよ
うに床に落ち、尚もバタつきながら店中を転がり廻っている。
店内には3人のお客が居たが皆呆然として見守っている。
一体なにが起ったんだ?入り口の戸を開け放っていたので、蝉かカナブ
ンでも飛び込んだのかもしれない。夏はよくそういうことがあるのだ。
私は捕獲か、それが難しければ追い出すために立ち上がったが、凄い
勢いなので中々捗らない。
「鳥だ!」そのうち一人のお客が呟くように云った。
「風きり羽を切られて飛べないらしい。」
なるほど、飼い鳥などはよくそういう事をすると聞く、私は突然作戦を変更。
「すみませんが、暫く戸を閉めますのでお急ぎの方は先に出てください。」
そう云ったが出る人は誰もいない。みんな捕獲作戦に協力してくれようと
云うのだ。無事捕まえて保護しなければ車に轢かれるかもしれない。
私は空いたダンボール箱を二つ用意し、自分が一個持ち、もう一個を一人
の男性客に渡して、他の二人には鳥を追ってもらうことにした。
みんな協力の甲斐あって、20分後鳥は無事伏せたダンボールの中に入り、
暗くなったせいか、落ち着きを取り戻したようだ。
「よかった、とりあえずよかった」皆思わず拍手した。

函を少し持ち上げ懐中電灯で照らしてみると、雀よりまだ随分小さくて嘴と
身体の一部がオレンジ色で可愛い小鳥である。
お客の一人の女性が持っていたパン屑をやってみたが食べない。洗った
灰皿に水を注いでやってみたがこれにも近づかない。あんなにバタついて
いたのだから何処かケガをしているかもしれないが、捕まえて調べるにも
大人しく捕まえさせてくれない。時はすでに23時を越しており、お客は三々
五々帰って行き、私もとりあえず水とパン屑をそのままにして店を閉じ、家
に帰る事にした。深夜とあっては籠や餌も準備できないので明朝までその
ままにしておくしかないと判断したのだ。

翌朝、早くに店に行った私はまず鳥がまだ無事其処にいることを確認して、
店の真裏、現在「三月の羊」になっている付近の並びにあったペットショップ
を訪れてみた。ひょっとして其処から逃げたものかもしれないと思ったのだ。
店のオヤジに特徴を説明して、オタクから逃げたものではありませんか?
と聞いてみた。するとそのオヤジはこちらの眼を見ようとせずに「知りませ
ん」と答えた。
怪しい。やはりこのオヤジが売れ残りの鳥を放したのではないか?
私の疑惑が邪推でなかった事は、丁度一年後その店で同じ鳥が大量に扱
われていたことで証明されるのだが、その時は証拠もなく、またあったとして
もそんな不人情なヤツに鳥を返すわけにもいかず。私は自分でその鳥を飼
うことにした。

とは云っても経験もなく、第一その鳥がなんという鳥で何を食すのかもわか
らない。くだんのペットショップで鳥籠を誂えて、餌を購入すれば手っ取り早
いには違いないが、意地でもそんなところからは買いたくない。しょうがなく
青梅街道沿いのペットショップに出掛けて、頼りない店員からの説明で兎に
角必要なものを揃え、急いで店に戻り、ダンボールを覗いてみた。
小鳥は随分静かになっていて、それはひょっとしたら弱っているということか
もしれないと思って不安だったが、兎に角恐る恐る手で包み込んで、買って
きた籠に移した。餌も二種類と水入れも清潔なものを入れてやったが、鳥は
止まり木にとまろうとせず。籠の底で蹲っている。餌にも水にも近づかない。
私は籠を家に持ち帰り、適当と思われる場所に吊るし、図書館に出掛けた。
鳥類図鑑が丁度店になかったのだ。

図書館で調べたところによると、鳥は和名キンカ鳥 学名ゼブラフィンチ。
オーストラリア原産だが、日本でも江戸時代から飼われているという。
もう何せ8年前に読んだことなので間違って憶えているかもしれないが、
そんなことだった。たしか「小鳥の飼い方」という本もその時借りてきて、其処
に書いてあったことを忠実に守って、2,3日様子を見ていると、小鳥は二種の
餌のうち一種をついばみ始め、水も呑み、止まり木にもとまるようになってきた
なんとか、大丈夫そうだ。
夜は籠に布を掛けてやり休ませ、早朝、チチチチと鳴く声を聞くと布を取って窓
辺に掛けてやる。餌函はフッと吹くと殻が飛んでそこに新しい餌を入れてやる。
水入れは清潔が肝要だから二つ用意したものを日替わりで洗って乾燥させる。
籠そのものも二つ用意して、すくなくとも一週間に一回は替えて徹底的な清掃
をした。
彼は、捨て子から一変王子様になったのだ。
イヤ、実を云うとオスかメスかはついぞ判らなかったのだが、落語好きの私は鳥に
「錦華亭ちのすけ」という名前をつけて、オスとして育てたのだ。

後編はまたまた木曜日に、火曜はどうも話が長くなるようだ。
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by shanshando | 2007-01-30 14:21 | ■原チャリ仕入れ旅■


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