上々堂(shanshando)三鷹

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2007年 03月 23日

蔵書と飲酒

翻訳家のIさんは蔵書が4千冊を超えると書庫を整理されて不要本
を売って下さる。
お仕事柄資料や寄贈本やも多く、増えるままにして置くと書棚が肥大
して機能障害を起こすというのである。
勿論書庫の物理的なキャパシティーの制限もあるだろうが、問題は一
人の人間が有効に活用できる情報の制限量ということであるらしい。
「私の頭脳じゃ4千冊で精一杯」とおっしゃる。

もう3、4回伺って同じことを聞いているが、「それはまたご謙遜…」と
いうべきかどうかいつも迷う。
マニアや蒐集家はもう無制限に欲しがり、時に物理的なキャパシティー
をすら無視するが、多くの場合それは読むことを目的にしていないから
それこそ何千冊だろうが、何万冊だろうが(家庭の平安を度外視すれば)
問題ないが。読むため、活用するための書物を4千冊管理できると言う
事は並大抵の能力ではないように想うのだが、どうだろう?

稲垣足穂が、大事な事は全部頭に入っているから、本など片っ端から
古本屋に売っちゃうと嘯いていたのを昔どこかで読んだ気がするが、
あれぐらいの碩学ならさもありなんと思う反面、たぶん本当は酒に替え
たんだろうとの想像もできる。
アルコールが脳に与える刺激も書物に劣らず有用なものだという意見
には無論与したいところだが、有用は概して有害でもあって…、いやしかし
それは書物にも言えることだ。

Iさんは全然召し上がらない方であるが、足穂という人は徹底した酒の呑
み方をした人であるということを聞いたことがある。
普段手元不如意のことが多く呑みたくても呑めないが、呑む金が出来ると
まず絶食をして胃をからっぽにして、サントリーのレッドをつまみなしでグイ
グイやったという。そのほうがアルコールの霊験があらたかなのだろう。
わら半紙を海苔のように火で焙って醤油をつけて食ったという逸話も聞くが、
事実かどうかは別にして、私はこの壮絶なカラ酒の方が足穂らしいと思う。

夾雑物なしに身体に沁み込むアルコールは意識に翼を与え、壮大な記憶
の海に飛翔させる。見下ろせば其処には既に記憶され写しかえられた蔵書
の文字が観える……。そんな超人類的な情報管理を足穂は行っていたの
ではないか?などと想像しながら、最近私は休日限定の酒を呑んでいる。

一週間の我慢の末に呑む酒だから出来れば気持ちよく酔いたいが、諸般の
事情がこれを許さない。
どのみち足穂のような羽を得たところで、浅学非才の古本屋では意識の海
に写されている文字は赤字だらけの帳簿の文字と請求書の金額くらいだろ
うから、大人しく子供のオシメでも替えながらチビチビやっているのが似合い
かもしれない。
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by shanshando | 2007-03-23 14:42 | ■原チャリ仕入れ旅■


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