上々堂(shanshando)三鷹

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2007年 05月 05日

ツクヨミオトコと象

店を閉めて帰る途中、玉川上水沿いを通りかかると、バシャバシャと
水の音がした。深夜になんだろうと不審に思いバイクを停めて鉄柵の
むこうを覗くと、両岸に草木が生い茂った狭い川の中に窮屈そうに象と
その背後に痩せぎすの背の高い老人が居て、老人が巨大な柄杓で
川の水を掬っては象にかけていた。
象はおそらく井の頭自然文化園の象だろうが、それにしてもなんでこん
な時刻にこんな場所で象に水浴びをさせるのかと思っていると、問いも
せぬうちに老人が地響きのような声で
「象が腹をこわして困るのだ」と言った。
どうやら奴がツクヨミだなと、私はなぜかすぐに合点して、なんとか伏せ
がちの顔を覗いてやろうとした。ツクヨミの顔などそうそう見られるもので
はない。見ることができればきっと良い運が開けるに違いないと思うが、
どう位置を変えて覗き込んでも、髭で覆われた老人の顔は判然としない。
意地になった私は再度バイクに跨り、立ち去ると見せかけて逆岸に素早
く回って、一瞬だがツクヨミの顔を見ることに成功したが、それはなんだか
ちょうど今から十年後の自分の顔だった。

変な夢を見る理由は、あとから考えるとちょうど眠る二時間前に読んでいた
本に起因していることが多いが、昨夜のこの夢の場合も思い当たることが
ある。
昨日は夜、早稲田大学の学生さんがゼミに提出するレポートのためのイ
ンタビューで来店していて、その人の名前がシバ・ルナさんという超印象的
な名前。シバというのは司馬で中国の歴史家の子孫かどうかは知らないが
、司馬遼太郎のほうは本名が確か福田さんだから血縁はないだろう。
なにしろ司馬家に生まれた女子にルナという名前をつけられる親御さんの
感覚はなかなか素晴らしいと思った。
一度聞いたら絶対に忘れようもない名前だ。
ルナという名前自体は差ほど珍しくないが、しかし月光のイメージの名前と
いうのは他にあまり思いつかない。
私は以前から、高円という言葉は月をイメージしているのではないかと思っ
て、いろいろ調べるが判らない。日本人は太陽より月に対する思いが深い
ように思えるから、私が知らない月に関する古語国語があるのではないかと
思い、帰宅後古語辞典をひいて調べていたものだから、ツクヨミという単語が
頭に残っていたのだろう。象のほうはまるで見当もない。

月読み男とか月人男というのは、月を擬人化したものらしいが、ツクヨミのほ
うは月夜見と書く場合もあり、定まった字がないところをみると、いっそ「つく黄
泉」なのではないかとも想像してみる。
たしかもう相当な老齢になる井の頭の象は、たまに行ってみても枯れた反復
運動を繰り返すのみで、なんだか眺めているのも気の毒になるが、それでも
相変わらず身罷る様子もない。
あの世への先導を申し付かったツクヨミオトコがあの巨体を如何にして誘うか
考えあぐねて、毎夜象自身に相談に来ているかもしれない。
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by shanshando | 2007-05-05 13:56 | ■原チャリ仕入れ旅■


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