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上々堂(shanshando)三鷹

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2008年 03月 18日

穴を掘る

「このへんなら大抵どんな土地でも2、3メートル掘ったら粘土層が出てくる
から、充分イケますよ。」
阿部さんの言葉を信じて私は穴を掘ることにした。
自分の家の敷地から採取した土で、焼き物を作ろうというのだ。
「まぁ、あんまり細かい細工は無理だけど、これくらいなら充分イケます。」
そう言って阿部さんが見せてくれたのは、彼の庭に飾られた円筒形のオブジェ
で、用途はよく判らないが、信楽のような焼き肌の風合いが良い。
「これは近所の工事現場から貰って来た土です。」
阿部さん宅から私の家までは500メートルくらいだから、ウチからもこんな土が
出るかもしれない。
それで、昨日の休み、午後からエイヤッと腰をあげ、雪かき用に以前買っておい
たスコップを持ち出した。
掘るのは、家の前の未舗装の私道。表面に踏み固められた砂利が多く、硬い上に
使っているのが角スコだから甚だ掘り難い。
知らない人のために言っておくとスコップには先が尖った剣スコと、平らな角スコ
があり、穴を掘るには断然剣スコが向いている。

午後3時頃から掘り始めて途中なんだかんだと雑用を命じられるものだから、4時
過ぎて掘れたのは漸く50センチくらいだろうか。途中郵便配達とか買い物に出かけ
る隣の奥さんが通りかかり、目を背けるようにして足早に行き過ぎていく。
不気味なんだろうな、どう見ても普通の庭仕事には見えないし……

日が暮れる前になんとか粘土らしき層に行き着いて、2キロ分くらい採取してみた。
はっきりとした層を成していないマーブル状だから、どうしても土や砂が混じってしま
うが、阿部さんによると強度を増すために敢えて砂を混ぜたりもするらしいのでヨシ
とする。
5時半くらいから掘った穴を埋め戻していたら、昔浦沢直樹の漫画で読んだ、リスト
ラ対象のサラリーマンをいびるために会社が研修と称して無意味な穴掘りを命じる
という話を思い出した。
朝から穴を掘って、夕方それを埋め戻す。それをずっと続けさせるのだ。
バブル崩壊後のリストラの嵐の中で本当にそんな事があったのかもしれない。
組織の歯車として働くことを習い性としているサラリーマンにとってこれほどえげつな
い苛めはないだろう。実際そんな目にあわされたら、ちょっと気が強い社員なら裁判
沙汰にしかねないだろうと思うのだが、歴史的に強圧に恭順することに慣れている日
本人の多くは逆らうこともせずに辞めていくのだろうか?実際は。

古本屋は……いや一般化してはいけない……私は無為に慣れているというか、むしろ
無為を愛しているので、こんなことを自分から進んでやっている。
必死で無為にしがみついている時ほど安らぐ時間はない。誰かの悪意をうけてやるのは
真っ平だけど、自分から進んでなら無為もまた愉しである。
採取した粘土は少しだけ捏ねてビニール袋に入れ水分が失せないようにして、夕食後
実験のために少し取り分け更に捏ねて、箸置きを作ってみた。
今週末には阿部さんの庭で七輪に火を熾すので、傍らに入れてもらい焼いてみるつも
りだ。
家の外の濡れ縁に乾したそれは今朝摘み上げてみるといい感じに乾き始め、昨夜より
軽くなっている。壊れないように静かに戻したら、コツンと乾いた音をたて、なんだか骨
上げの時の骨に似ていると思った。

by shanshando | 2008-03-18 17:35 | ■原チャリ仕入れ旅■


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